コラム

「年金維持のため69歳定年に」日本より健全財政のドイツでなぜ?

2016年09月06日(火)16時17分

Hannibal Hanschke-REUTERS

<公的年金制度を維持するため、退職年齢を69歳まで引き上げるべし――。日本ではなくドイツの話だが、よく似た年金制度を持つ日本は、ドイツよりはるかに厳しい財政状況にある。なぜドイツでこのような提言が出されたのか。日本の年金はどう考えればいいのか>

 ドイツで定年を69歳まで延長するプランをめぐって大論争となっている。背景にあるのは公的年金の財政問題。ドイツは日本と比較して財政健全化に対する姿勢が厳しいことで知られるが、そのドイツですら年金制度の維持が疑問視されつつある。ドイツと比べてはるかに厳しい財政状況にある日本の年金はどう考えればよいのだろうか。

ドイツの公的年金制度は日本とそっくり

 ドイツの中央銀行にあたるドイツ連邦銀行は8月、公的年金制度を維持するため、退職年齢を69歳に引き上げるよう提言した。同銀ではドイツの年金財政は現状では十分な状況にあるとしながらも、年金の継続性を考えると2060年をメドに退職年齢を69歳まで引き上げるのが妥当と主張している。

 ドイツの退職年齢は現在65歳となっており、2029年までに67歳に引き上げることが決まっている。今回の提言はこれをさらに引き上げるというもので、さすがのドイツでも、これはかなりの論争になっているようである。

 年金制度には、自身が積み立てたお金を将来年金として受け取る積み立て方式と、若い世代が高齢者を支える賦課方式(世代間扶養)の2種類がある。賦課方式は現役世代の稼ぎを利用するという仕組みなのでインフレに強いというメリットがある。しかし高齢者の割合が高くなってくると、現役世代の負担が過大になり、制度の維持が困難になるという致命的な欠点がある。

 日本の公的年金は典型的な賦課方式となっており、高齢化の進展によって現役世代の負担が急上昇している。日本において年金制度の継続性や世代間格差の問題が議論されるのは、公的年金が賦課方式であることが大きい。

 しかし賦課方式は日本独特の制度というわけではない。ドイツの公的年金制度も、実は日本とよく似ており、若い世代が高齢者世代を支える賦課方式を採用している。年金保険料の料率(被用者年金の場合)についても約19%と日本に近い水準であり、企業と従業員が保険料を折半する点も同じである。ドイツは日本の年金制度の是非を考える上で非常によい比較対象といえる。

ドイツの年金財政は日本よりも良好

 日本とドイツの最大の違いはその財政状況である。ドイツの公的年金は受給者の給付金などの支出が2588億ユーロ(約30兆円)であるのに対して、現役世代からの徴収する保険料は1943億ユーロとなっている(2013年)。つまり年金給付額の75%を現役世代の保険料でカバーしている計算になる。足りない部分は、国庫から補助される仕組みだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUがウクライナ産の小麦と砂糖に輸入枠、最大で80

ワールド

サウジ、ガザ恒久停戦を優先と外相 イスラエルとの関

ワールド

関税に関する書簡、米東部時間7日正午から送付開始=

ビジネス

エールフランスKLM、スカンジナビア航空への出資率
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story