コラム

日本企業の役員報酬は本当に安いのか?

2016年07月12日(火)15時14分

グローバル基準とはいったい何なのか?

 これまで日本企業の役員報酬については、国際的な水準と比較して安すぎるという指摘があった。確かに欧米のグローバル企業の役員報酬は、日本企業とはケタ外れの水準であり、その点からすれば日本企業の役員報酬は破格に安かったと言ってよいだろう。

 だが役員報酬が業績を根拠に支払われるものであると考えた場合、日本企業の役員報酬が本当に安いのかについては疑問の余地がある。日本企業の業績は欧米のグローバル企業と比較するとお寒い限りだからである。

 日本の大手企業におけるROE(株主資本利益率)は米国企業の4分の1、欧州企業の3分の1しかない。日本の上位10社の売上高合計は約130兆円ほどだが、米国の上位10社の売上高合計は270兆円に達している。これは全体的な数字なので、個別企業ごとにもう少し詳しく見てみよう。

 武田薬品工業は日本企業の中ではグローバル化が進んだ企業といわれる。同社の長谷川閑史会長は財界きっての国際主義者といわれており、安倍政権における産業競争力会議のメンバーも務めていた。長谷川氏の役員報酬は4億5000万円、社長であるクリストフ・ウェバー氏の報酬は9億500万円となっており、役員報酬や国籍はまさにグローバル水準といってよい。

 では同社の経営はどうなのだろうか。2016年3月期の売上高は1兆8074億円、当期利益は802億円となっている。一方、国際的な製薬大手ファイザーの2015年12月期の売上高は、488億5100万ドル(約4兆9800億円)、純利益は69億6000万ドル(約7100億円)だった。武田薬品の利益水準はファイザーの8分の1以下の水準でしかない。売上高に対する当期利益率で比較しても、ファイザーの14.2%に対して、武田薬品はわずか4.4%である。

 ファイザーのイアン・リードCEOの2015年度における報酬は1941万ドル(約19億8000万円)だが、基本給とボーナスが約6億3000万円となっている。残りはすべて株式による報酬となっており、現金による直接負担はない。見方によっては武田薬品の報酬は極めて高額ということもできるだろう。

ソニーの利益はアップルの36分の1しかない

 日本を代表する電機メーカーであるソニーも同じような状況となっている。ソニーの2016年3月期の売上高は8兆1057億円、当期利益は1480億円だった。同社は業績不振が続いており、2012年3月期には4550億円の損失を出し、2014年3月期、2015年3月期も赤字決算が続いてきた。今期ようやく黒字に転換したという状況である。同社の平井一夫社長の報酬は5億1300万円で、このほかにストック・オプションも付与されている。

 一方、米アップルの2015年9月期の売上高は、2337億1500万ドル(約23兆8390億円)、純利益は533億9400万ドル(約5兆4460億円)であった。アップルはソニーと比較すると36倍もの利益を上げている計算になる。しかし、同社CEOであるティム・クック氏の2015年における報酬はわずか1028万ドル(10億500万円)だった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 9
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story