コラム

日本企業の役員報酬は本当に安いのか?

2016年07月12日(火)15時14分

Issei Kato-REUTERS

<国際的に見て「安い」と言われていた日本企業の役員報酬が、このところ高額化している。これで「標準的」になったのか? しかし、カルロス・ゴーン氏をその象徴とする捉え方も適切ではないし、役員報酬が何に対して支払われるのかを考えれば、今の高額報酬は決して容認できるものではない> (写真は武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長。報酬は9億500万円)

 上場企業の株主総会が一段落したことから、役員報酬に関する話題が盛り上がりを見せている。日本企業の役員報酬は国際的に見て安いといわれており、最近ではこの差を埋めるように報酬額がうなぎ登りに上昇してきた。日本企業の役員報酬が安かったのは事実だが、このところの高額報酬化は、グローバル基準に照らした場合、逆に容認できないという側面もある。役員報酬はどの程度が妥当なのかについて整理してみたい。

1億円以上の役員報酬をもらった役員は414人

 東京商工リサーチの調べによると、2016年3月期決算において1億円以上の役員報酬をもらった役員は211社、414人だった。2012年は295人、2013年は301人、2014年は361人、2015年は411人だったので、高額報酬を得る役員の数は順調に増えているといってよいだろう。

 一方、従業員の待遇はまったくといってよいほど向上していない。資本金10億円以上の企業における従業員の平均年収は2006年には600万円もあったが、2014年は560万円まで下がっている。1億円以上の報酬をもらった上場企業の役員数とまったく同じ条件で比較できる統計ではないが、俯瞰的に見て従業員の待遇が悪化し、役員の待遇が向上しているのは間違いない。

【参考記事】パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

 役員報酬の妥当性を評価するためには、役員報酬が何に対して支払われるものなのかについて理解する必要がある。日本では会社は従業員のモノという意識が強く、役員も従業員からの持ち上がりで昇進するケースが多い。役員本人も従業員の延長線上で物事を考えがちである。だが従業員の給与と役員報酬は本質的にはまったく異なるものである。

 役員報酬は企業の所有者である株主から会社の経営を委託されたことに対する報酬である。何時間働いたのでいくら、という類いのものではない。したがって役員報酬がいくらであれば妥当なのかという問題は、究極的には株主が納得するかどうかにかかっている。

 ただ一般的に株主は、企業価値の増大か配当の増額を望んでいるので、株主が納得するということはすなわち、業績が上がっているということ。会社が出した業績に対して役員報酬が発生していると考えて差し支えないだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、効果的な意思疎通必要 デカップリング「合理的

ビジネス

IMF、今年のアジア成長率予想4.5%に引き上げ 

ワールド

トランプ氏、プーチン氏と16日電話会談 ウ大統領訪

ビジネス

金融緩和による資産価格上昇リスク懸念せず=ミランF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story