コラム

日本企業の役員報酬は本当に安いのか?

2016年07月12日(火)15時14分

 クック氏にはすでに付与された多額のストック・オプションがあるが、現金として受け取っている報酬を考えると、平井氏と大きな差があるわけではない。ソニーの業績とアップルの業績があまりにも違い過ぎるという現実を考えると、本当に日本企業の役員報酬が安いのか疑問の余地がある。

 業績との比較という面に加えて、本当に諸外国のトップが皆、高額報酬なのかという点にも注意する必要がある。役員報酬の是非をめぐる議論の中で必ずといってよいほど登場してくるのが日産のカルロス・ゴーン会長である。

 ゴーン氏の高額報酬は、グローバル・スタンダードの象徴として語られており、日本の役員報酬を引き上げる有力な根拠となってきた。だがゴーン氏の報酬が本当にグローバル・スタンダードなのかについても少々疑問の余地がある。

本国では高額報酬を受け取れないカルロス・ゴーン

 ゴーン氏は日産のトップに就任して以降、常に10億円近くの報酬を受け取ってきた。ゴーン氏は日産のトップであると同時に親会社であるルノーのトップも兼任しているのだが、ゴーン氏は実はルノーからはそれほど多くの役員報酬をもらっていない。

 例えば2011年にゴーン氏は、総額で1270万ユーロ(当時のレートで15億6000万円)の報酬を受け取っていたが、その多くは日産からのものであった。ルノーからは2012年には289万ユーロ、2013年には270万ユーロしか受け取っていない。フランスはミッテラン政権において企業の国有化を進めるなど官僚主義的な風潮が強く、企業トップの報酬も米英などと比べると低く抑えられている。

 つまり本国では到底許容されない高額報酬を、アジアの子会社である日産からもらっていたというのが真相である。日本では厳しいコストカッターとして知られるゴーン氏だが、フランスでの顔は少し違う。労働組合に対して労働時間の延長と賃金の凍結を受け入れてもらう代わりに、自身の役員報酬の受け取りの延期まで申し出ており、組合に対して甘い経営者として知られている。

 ちなみにゴーン氏は、最近ではルノーからの報酬も引き上げており、2015年の報酬は約725万ユーロ(約8億2600万円)に達している。だがこの報酬に対してはフランス政府が反対の立場を表明しており、フランス国内では今後も議論が続く可能性が高い。少なくもゴーン氏の報酬を、欧米型グローバル・スタンダードの象徴として議論するのは適切ではない。

【参考記事】ゴーンCEOの高額報酬、ルノー株主54%が反対するも取締役会は承認

 筆者は日本企業のグローバル化に賛成する立場だが、グローバル展開する以上は、すべての面においてグローバル化しなければ意味がない。役員報酬は国際基準だが、業績は国内基準などということはあってはならないだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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