コラム

「ちょっとパブに」すら贅沢... 春なのに天気の話もできないイギリス

2023年04月25日(火)17時05分
パブで乾杯

パブでビールを飲むのもかなり高くつくようになった(写真はイメージです) LEOPATRIZI/ISTOCK

<イギリスに気候の良い4月が訪れると例年は天気の話をするはずのイギリス人たちが、今年は急激な物価上昇の話題で持ちきり>

4月は大抵、気候が穏やかになり始め、イギリスの人々が天候に対して好意的な気持ちを抱く月だ。でも今年は一気に押し寄せた値上げ(多くの分野で同日に行われた)もまた顕著な月だった。

僕たちは皆、いつもの話題(つまり天候)よりもむしろ値上げについて話していた。ファーストクラス(翌日配達)郵便の値段は約16%上昇。地方税は5%増額。水道代は全国平均で7.5%上がった(僕の住む地域では10.5%値上げ)。国民保健サービス(NHS)の薬代は30ペンス値上がりし、ほんの3.2%の上昇ではあるが、医師の診察を受けるのに3週間も待たされて、ちょうど値上げされた日に処方箋を受け取る羽目になった僕は腹立たしい思いをした。総合して、これらは家計に結構な打撃を与えている。

イギリスではここ数十年ほど大規模なインフレが起こらなかったから、僕たちは比較的安定した価格に慣れてしまっていた。値上がりがあっても、何年かかけてこの製品やらあのサービスやらの価格が少々上がっていく、という程度だった。それが今では、2桁のインフレに襲われているから、一部の商品の値段は劇的なほどに上昇している。常に買っているような製品は特に値上がりに気付きやすい。例えば少し前に4パイント(約2.2リットル)当たり1.1ポンド(183円)だった牛乳は今年になって1.65ポンド(275円)に急騰した。

安かったはずのパブも床屋も

僕が心底驚いたのは、ロンドンのパブでのビール1パイントの価格だ。インフレの始まる前ですら、既にかつてなら考えられないレベルの5ポンド(約830円)になっていたのは知っていたが、それが今や多くの店で7ポンド(約1160円)近い値段になっている(8ポンド〔約1330円〕を超えたところもあるらしい)。昨年12月に僕は学生時代の古い友人たちとクリスマス飲みで金融街のしゃれたパブを訪れた。(レストランでもナイトクラブでもなく)「ちょっとパブで会う」のは以前なら安く済む選択肢だったはずが、その日はすっかり高くついた夜になってしまった。
 
ご存じかもしれないが、イギリスでは「ラウンド」で飲み物を買う伝統がある(みんなが仲間の分を順におごっていく仕組みだ)から、一番安いビールばかりを選んで節約するわけにもいかない。ゆっくり飲んで1杯減らすこともできない──全員同じペースで飲まなければならないのだ(誰かに「ペースを落とすなよ!」と言われることだろう)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story