コラム

大幅遅れに予算オーバー、でも完成すれば大絶賛 「エリザベスライン」開通もイギリスお決まりの展開に

2022年06月02日(木)17時00分

エリザベスラインは「ある意味で開通」と言ったのは、まだ未完成の区間があって完全には開通できていないからだ。新たな電車も路線もできたが、今後まだ1年かそこらは乗り換えが必要で、これではまるで期待外れだ。にもかかわらず、この事業の素晴らしさが強調された。「大聖堂みたいな」新駅舎、高い技術水準......。そして少なくとも、エリザベス女王の在位70周年を祝うプラチナ・ジュビリーの祝賀行事にはちょうど間に合ったじゃないか、と。

お決まりのパターンには、たいていちょっとした特徴がある。このエリザベスラインの場合、当初の完成予定(2018年)は開通予定の数週間前になって突然、ボツになった。まるで彼らはずっと予定通りに完成できると考えていて、最後の最後の瞬間になってようやくあと4年必要だと気付いた、とでもいうかのようだ(明らかに、コロナ禍が遅れの一因ではある)。

僕はいろいろとため込むたちだから、延期が発表される前の笑える雑誌記事をまだ取っておいてある。そこには、このエリザベスラインが完成したらイギリスにとって信じ難いほどの偉業になるだろう、と書かれている。公平のために言うと、記事の書き手は「もしも万が一、予定通りに完成したら、の話だが......」と前置きしてはいるが。

理論上は、クロスレールはエセックス(僕の住む街で、ロンドン東部に位置する)からロンドン西部のヒースロー空港までをつなげてくれるから、僕にとってはかなりありがたいものになるはず。でも、まだそうなっていない。たまたま、僕の友人たちが近々アメリカからやって来るのだが、クロスレールが期限どおりに完成していたら、道中ほとんど乗り換えなしの1本の電車で済んだのにね、と彼らに言いたかっただけにがっかりしている。でも、本当ならそうできるはずだったのに、という話を聞かされてもムッとするだけだろうから、僕は黙っておいた方がいいだろう。それに、イギリスに到着したばかりの人に、僕の国ってしょせんこんな国だ、と話すのも気まずいものだ。

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story