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焦点:中国レアアース輸出規制、外交的成果の裏で苦しむ国内業界

2025年07月08日(火)10時06分

 7月7日、中国によるレアアース(希土類)輸出規制は世界的な自動車産業のサプライチェーン(供給網)の一部をストップさせ、トランプ米大統領を交渉の席に引きずり出す外交的な成果を収めた。写真は2010年10月、江蘇省連雲港に積まれたレアアースを含有する土(2025年 ロイター)

[7日 ロイター] - 中国によるレアアース(希土類)輸出規制は世界的な自動車産業のサプライチェーン(供給網)の一部をストップさせ、トランプ米大統領を交渉の席に引きずり出す外交的な成果を収めた。だがその裏では、既に国内経済の減速で苦境に置かれていた中国のレアアース業界に大きな頭痛の種をもたらす結果になった。

トランプ氏の追加関税への報復として、中国政府は今年4月にレアアースとレアアース磁石の輸出を制限。磁石メーカーの海外売上高が減少している。折り悪く、彼らは低調な国内景気や重要市場である電気自動車(EV)の激しい価格競争という逆風に見舞われていた。

米国と中国は6月27日にレアアースの供給を再開することで合意したものの、磁石メーカーの痛みがすぐに和らぐ公算は乏しい。

政府系の取引プラットフォーム、包頭希土産品交易所は、米中合意発表直後に通信アプリ「微信(ウィーチャット)」への投稿で、いかなる合意も実行されるまでに時間がかかるとした上で、倉庫には在庫が積み上がっていると明かした。

中国の主要レアアース採掘拠点の1つ、内モンゴル自治区にある同交易所は5月、輸出制限は一部の国内磁石メーカーにとって「危機」を生み出したと指摘していた。

上場磁石生産者のうち時価総額上位11社を見ると、昨年の全収入に占める輸出の比率は18-50%と幅がある。

商品情報を提供するアーガスの金属価格責任者を務めるエリー・サクラトバラ氏は「生産者の売上高は、輸出の途絶とさえない内需という両面から圧迫されつつある。彼らは顧客層の重要な部分を一時的に失い、いつ取り戻せるかはっきりしない」と述べた。

中国においてレアアースは政治的な要素に絡む製品なので、輸出規制策で事業にどのような影響を受けるかについて発言した大手上場企業はほとんどない。

ただ匿名を条件として、レアアース磁石を生産する2社がロイターの取材に応じ、今年は減収になるとの見通しを示した。

このうちの1社は「規制は当社の輸出事業に甚大な影響を及ぼす。とはいえ現時点で正確な損失額を言うのは難しい」と語った。

別の1社は、中堅中小生産者は4月と5月に約15%の減産に動いたと明かした。

<株価では分からない全容>

上場磁石メーカーの株価は、輸出規制が発表された4月に急落したが、その後3カ月で値を戻している。

ただコンサルティング会社トリビウム・チャイナで重要鉱物調査責任者を務めるコリー・コームズ氏は、そうした値動きは何らかの業界の明るい見通しを根拠にしているわけではないとくぎを刺す。

コームズ氏は「さまざまな市場予測があるが、それらは前提条件によって弱気の程度にこそ差があるものの、今のような株価の持続的上昇につながるような予測は1つもない」と言い切った。

また同氏によると、多くの磁石メーカーは非上場企業なので、株価の動きが伝えるのは業界の限られた範囲の状況だという。

多くの生産者は既に中国国内で、価格競争に直面している得意先のEVメーカーから仕入れ価格引き下げを迫られるなど事業環境が厳しさを増している。

4人の関係者の話では、多くの磁石製品は高度にカスタマイズされているため、別の顧客に再販売することができず、輸出許可が下りるまで在庫として抱えざるを得ないと説明した。

<以前の状態に戻れるか>

上場企業、包頭天和磁材は4月終盤に公表した年次報告書で輸出規制に言及し、国際情勢が悪化すれば輸出収入は落ち込みかねないと警告した。

別の上場磁石生産者は先週、輸出許可を受け取り、生産は正常だと明らかにした。

それでもアーガスのサクラトバラ氏は、レアアースがゲルマニウムやアンチモンといった他の重要鉱物と同じような形で管理されれば、以前のような状態にすぐ戻ることはないと予想する。

中国は2023年から昨年にかけてゲルマニウムとアンチモンの輸出管理制度を導入。これらはほとんどが民間産業で利用され、理論上は輸出許可取得にほとんど問題ないはずだが、実際に輸出はなお完全に回復していないことが、税関のデータで分かる。

サクラトバラ氏は「アンチモンなどレアアース以外の重要鉱物に対する最近の中国の輸出管理に目を向けると、輸出の再開と正常化には想定よりも長い時間かかる事態があり得ることがはっきりしている」と分析した。

米西部アイダホ州のボイシ州立大学のデービッド・エイブラハム客員教授は、輸出許可取得のために大量の情報提供を義務付けられることが業界に恒久的な変化を与え、生産者は輸出の遅れと追加的な負担を余儀なくされるだろうとみている。

エイブラハム氏は、業界にはさらなる再編圧力がかかってもおかしくないとした上で、中国政府としては一段の再編は業界の統制強化につながる以上、悪いことだと考えていないかもしれないとの見方を示した。

ロイター
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