コラム

僕のイギリスの母校はなぜ教育格差を覆せたのか

2020年08月12日(水)18時50分

教師のレベルが優れているわけでもなく、生徒も本質的に優秀ではなかったのに…(写真はイメージです) DGLimages-iStock

<労働者階級が多く住む地域で教師の質も高くないイギリスの公立校が高い業績を上げられたのには意外なところに理由があった、と今では思う>

僕は、住民のほとんどが労働者階級という地域で、2つしかない「良い学校」のうちの1つに通った。この2校だけが高い割合の生徒を大学に送り出しており、時にはオックスブリッジ(オックスフォード大学とケンブリッジ大学)にわずかながらの人数を合格させることさえあった。

僕はよく、いったいなぜ僕の母校は業績が良かったのだろうと不思議に思った。なぜなら入学してすぐに、教師のレベルが素晴らしいとはお世辞にも言えないものだと気づいたからだ。刺激を与えてくれる教師はほとんどいなかったし(70人ちょっとの職員室に4、5人という感じ)、その他の数人はマシ、あるいは情熱はある、といったところ。でもほとんどは教師面しているだけの連中で、一本調子で教科書をただ読むだけ。「口述筆記」でしかない授業もいくつかあった。教師が教科書を読み、生徒は言われたことを書く。

ひどい教師も数人いた。学業成績が卒業後の進学先を左右することになる大切な最後の2年で、僕の教師の1人に当たったのはアルコール問題を抱えた人だった。彼はランチタイムにパブに行ってはノロノロ戻ってきて、ビールの匂いをさせながら10分遅れで授業を始めた。また、他の教師は、とりとめのない話をしてばかりで、どの授業でも同じ逸話を繰り返し話し、必修カリキュラムが一向に進まなかった。

僕たち生徒の側も、本質的に優秀ではなかった。僕たちは(地域のもう一方の良い学校とは違って)学業実績で選抜され入学したわけではなかった。特別恵まれた家の出でもない。クラスの生徒たちには中産階級が1人いれば労働者階級が2人いるといったところだ。ほとんどの生徒は、大学へ進んだ身内などいなかった。いい住宅街に住んでいる生徒もいたが、公営住宅団地住まいもいた。生徒の約3分の1がアイルランド移民2世で、父親は肉体労働従事者。それでも僕たちの学校は地域の数十の公立学校よりかなりちゃんとしていただけでなく、学力試験でもずっと高い成績を収めていた。

何年もの間、僕はこの「違い」は単に、僕の母校が極端に規律が厳しかったせいだと考えていた。規則が多かったし、その規則は断固として守らされたし、違反するとひどく罰せられた。居残り時間は他校より長かった(金曜夜に2時間居残りさせられるのは最悪だった)。僕たちの学校は、体罰を採用していたイギリスの公立校の最後の数校のなかの1校だった(僕は実際、やんちゃをして13歳で体罰を受けた)。宿題の量も他校より多かった。他の学校は学期末に試験があったが、僕たちは次の学期初めに試験があり、そのため「休暇」は復習に費やして台無しになった。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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