コラム

ブレグジットしたら意味不明なルールから解放された件

2021年01月25日(月)13時20分

非接触のデビットカード支払いはコロナ感染予防にも効果的なはずなのに、なぜかEUは低めな限度額を設定 Phil Noble-REUTERS

<生理用品に余計な課税、デビットカード支払いの中途半端な限度額、預金保証限度額の謎な設定......EUのおかげで理不尽な決まりがまかり通っていたが>

イギリスはいくつかの理由でEUを離脱した。そのうちよく言われるものの1つは、EUの「狭量な官僚主義」、言いかえるなら「EU本部による干渉」だ。僕にはこのことが外の世界によく理解されているとも思えないので、ちょっとした例を挙げてみたい。

「移行期間」が終わってイギリスがついにEU本部のルールに従うのをやめるやいなや、1つの制度変更が即座に実行された。女性の生理用品への課税が撤廃されたのだ。

EUのルールでは、各国は生理用品に消費税を課さなければならなかった。これはイギリスにとって納得し難いものだった。女性の健康と生活に欠かせない製品だから、政府が税金を課すのは間違いだと見られていた。これは性差別的な税だ。

女性は男性より裕福でない傾向が高いから、女性だけが買わなければならない物に課税することは不公平のうえに不公平だ。「生理の貧困」は人種的マイノリティー家庭の少女に、過剰な負担を与える。

イギリスでは異なる政治的立場を超えて、これは不公平な税だという共通認識があった。だがEUのルールは適用しなければならなかった。とはいえ、抜け道も見つけ出された。EUのルールでは消費税を課す必要があるものの、その国の標準税率に合わせる必要はない。イギリスの消費税VAT(付加価値税)は20%だが、衛生用品には軽減税率の5%(法的に最低限の許容税率)が設定されていた。

明らかに、VATの新税率設定に対応することは、店舗にとっては厄介な作業だ。そして、イギリス中の誰もが非課税にすべきと思っている物であることを考えると、なおさら馬鹿らしい(イギリスでは基本的な食料品や子供服などはVAT非課税の「必要不可欠品」になる)。

「協調」の名の下、各国横並びのルール

イギリス人の中には、この理不尽な「タンポン税」のことを耳にし、世論無視のわがイギリス政府が、女性を犠牲にして税金を集める手段として設定したのだと考え、困惑する人もいる。だが実態は正反対。イギリス政府がこの税をなるべくなくすよう努力した結果なのだ。

この5%の軽減税率は、同じような理由で家庭用燃料にも適用される。イギリスは年金生活者が低体温症で亡くなる事態は避けたいが、EUのルールでは家庭用のガスや電気代に少なくとも5%を課税しなければならなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story