コラム

ロックダウンで脅かされる命もある

2020年04月07日(火)18時45分

未知のウイルスが相手だけに、このロックダウンによってイギリスでどれだけの命が救えるかは、ほぼ算出不可能だ。1、2万人かもしれないし、数十万人に上るかもしれない。全ての命は守る価値があり、どんなコストも惜しまない、という意見が出るのは当然のこと。でも、その代わりに今後も毎年のように不況と貧困関連での死者が積み上がり、多くの人々の未来が失われるかもしれない。

例えば、努力家は何年もかけて築いたビジネスを失い、子供たちは数カ月におよぶ休校で教育を奪われ(これは労働者階級の子供の機会に特に悪影響を与える)、30代そこらの人は初めての家を購入することもできずに、子供を持つことを先送りしたり断念したりする。

未来の人々が(誰の犠牲のおかげかも知らずに)よりよい暮らしをするために、今この場にいる多くの命を犠牲にするような政策は、策定することはもちろんのこと、その算定を試みることすらかなり冷酷だろう。

僕はイギリスでの即時のロックダウン解除を支持しているわけではない。このロックダウンは、イギリスの病院が患者急増に対応しきれなくなり、治療が行き届かないことで感染者の致死率が上がるといった状況下で、急きょ実行された。でも、命を守るための極端な措置には、貧困層と若年者を特に苦しめる深刻な犠牲が伴うということを、冷静に理解することも必要だと思う。

<本誌2020年4月14日号掲載>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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