コラム

誰かが本当の勇敢さを見せるとき

2020年03月31日(火)19時00分

信じられないような偶然だが、番組に出てきた殺人事件の1つを、僕は昨年このコラムで取り上げていた。僕の地元で起きたホームレスの殺人事件だ。あの事件をBBCの撮影チームがずっと追いかけていたとは僕も知らず、事件の詳細や事件の正確な流れが分かって、興味をそそそられた。

ストーリーはほぼ僕が理解していたとおりだったが、1つ新たにはっきりしたことがあった。警察は誰が犯人か分からず、地元のホームレス仲間は知っていたものの怖くて何も言えなかったが、ついに彼らの1人が口を開いた。「ジョン」なる人物が警察に、殺人事件の容疑者はロンドンのギャングの麻薬密売人だと証言し、その容姿を詳細に説明して、「垂れ込んだヤツ」は撃ち殺すと脅された、とも話した。この脅迫は完全に信用できる。ギャングたちが、警察に協力した人々を殺すのはあり得ることだからだ。

にもかかわらずジョンは、殺された男性が友人だったために、警察署に出向いて正式な証言をしてもいいと同意した。その夜、自分がいつもの場所(たまたま僕が通っているジムの裏通りだった)に戻って眠ることは承知の上で、それが恐ろしく無防備なことだとよく分かっていながら。ジョンは少し不安そうだったが、それでも証言すると心を決めた。

ほぼ確実に、僕は近所でジョンとすれ違ったことがあるはずだ。彼は文字どおり、僕の自宅から1キロと離れていないところで寝泊まりしていた。おそらく、このタトゥーを入れたアルコール依存症の彼を見かけていたら、僕は哀れに感じたり恥ずかしく思ったり、ひょっとすると軽蔑すら感じていたかもしれない。それでも彼は、命を落とした友人のために、他のみんなが口をつぐむなか、わが身を危険にさらして行動した男だったのだ。僕より勇敢な男じゃないか。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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