コラム

ブレグジット騒動さなかの欧州議会選挙で見えたイギリス人の本音

2019年05月30日(木)15時45分

370万人の英在住EU市民も沈黙?

有権者のEUとのつながりの欠如は、イギリスを見ればすぐ分かる。熱心な残留派の多くは、EUがどのように機能しているかほとんど理解しておらず、ただEUは「良いもの」だと信じている。小細工みたいな質問だけれど、彼らにEUのpresident(大統領)は誰か、と聞けば、2人の(ましてや3人の)presidentの名を答えられる人は少ないだろう(EUには理事会、議会、委員会があり、それぞれのトップは英語でPresident。日本では欧州理事会議長、欧州議会議長、欧州委員会委員長、と表記する)。彼らの役割の違いを説明できる人などもっと少ないに違いない。

イギリス人は欧州議会でどの「党」が最大勢力なのか知らないし、イギリスの各政党がどの政党連合と組んでいるのかも知らない。あるいは、欧州議会が開かれる場所はどこか聞いてみるといい。ベルギーのブリュッセルだけでなく毎月4日間は場所を移してフランスのストラスブールでも行われる(そのせいで納税者にかなりの余計な負担がかかっている)ことを知らない人がほとんどだろう。欧州議会の事務局がルクセンブルクに置かれていることを知っている人もほとんどいない......僕だって自分で調べて知った。

僕が説明したいのは、一見したところ国民の半分がEU残留を「大声で叫んでいる」ように思われる状況にもかかわらず、情熱を奮い立たせて先週の投票に行ったのが、いかにしてほんの3分の1ほどの有権者になったのか、という点だ。投票に出かけた人々のうち、20%は自由民主党(2016年のEU離脱の是非を問う国民投票の結果を覆すために国民投票の再実施を公然と要求している党だ)に投票した。離脱プロセスが大混乱を招いているにもかかわらず、今回の欧州議会選は、ブレグジット阻止に向けて大きな力を持つ投票には到底なりようがなかった。

もちろん、他の党に投票した人の中にも残留支持者はいる。スコットランド国民党(SNP)と緑の党に投票した有権者の大多数は残留派で、労働党と保守党に投票した人々は離脱派と残留派に分かれる。でも、反ブレグジットを掲げて今年結成された「チェンジUK党」が今回、著しい支持を集められなかったのは興味深い。

日本の読者はおそらく気付いていないかもしれないが、イギリスには約370万人のEU市民が居住していて、18歳以上なら今回の選挙に投票できた。だから、あえて議論のために言うと、もしも彼らのうち200万人ほどが残留派の党に投票すれば、選挙結果に大きな影響を与えられただろうし、ブレグジット党が最大の勝者になることもなかっただろう。それが起こらなかったのはなぜだろうか。

この手の無知・無関心は、イギリス国政に関してはあまり当てはまらない。圧倒的多数の人々が、政府の働きぶりはどうで、議会のある場所はどこで、地元選出の議員は誰なのか、しっかり把握しているのだから。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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