コラム

「学費無料なんか不可能」と若者に説教するイギリスの老害

2017年07月28日(金)15時10分

学生ローンに苦しむ若者たちは、近く労働党政権が誕生して何とかしてくれると本気で信じている(イベントでコービン支持をアピールする若者たち) Dylan Martinez-REUTERS

<多額の学生ローンに苦しむイギリスの若者たちは、近い将来労働党が与党になって学生ローンの負債を軽減してくれることを期待している>

前回のコラム「大学も就職も住宅も『損だらけ』のイギリスの若者たち」では、説明しきれなかった注意点や例外がたくさんあった。「最大で」とか「多くの」「一部の」と条件を付けるべき個所も多かった。文章中に「*」を付けて、最後に脚注で説明したかったくらいだ。

例えば、「*スコットランドの大学に在籍するスコットランド人学生の場合は学費無料」「*RPI(小売物価指数)プラス3%の利息が課されるのは、2012年以降に大学に在学していた学生のみ」「*学費は2012年までは『たったの』3000ポンドだった」「*比較的貧しい家庭出身の大卒者の債務は平均して5万9000ポンドだが、これは比較的裕福な大卒者の債務より数千ポンド多い」などだ。

さらに、前回のコラムではっきりさせておくべきだったことを、いま一度補足させてほしい。

前回コラムではポンドの金額に円での金額を併記したけれど、現在のレートで円換算したこれは、ミスリーディングだった。今は非常にポンド安が進んでいるため、現在のレートで円換算すると債務が実際より少なく見えてしまう。典型的なイギリス人の収入も、同じように円換算で見ると少なく感じるだろう。1ポンド=200円くらいでイメージしてもらうほうが現実に近いかもしれないから、学生ローンで今の大卒者が抱える平均5万ポンドの債務は、日本円でいえば1000万円に匹敵するくらいの負担になる。

学生ローンの条件も何度も変更されているので、一言で説明するのは難しいし、理解するのさえ大変だ。ローンが帳消しになったケースはどのような状況だったのか、どんな人がどういう金利でいくらローンを返済しているのかなど、僕自身も大混乱してしまった。詳しく調べれば調べるほど手に負えないのだ。

僕は個人融資についてはちょっと詳しいほうだと思っているが、それでも理解するのにとても苦労した時期があった。だとしたら、恐らく自分の資産管理など経験したこともない17歳の学生にとっては、どんなに大変なことだろう。まだ状況もよく把握できないような年齢のうちに、若年層を丸め込んで多額の借金を背負わせるのは、間違っているとしか思えない。

【参考記事】ヘンリー王子が語った母の死と英王室(前編)

労働党政権が近いと確信する若者たち

学生ローンは、後に条件が変更され、さかのぼって適用されることもある。将来的に勝手に条件を変えられるかもしれないというなら、現時点で提示されている条件がいいのか悪いのか、あるいはどの程度のメリットとデメリットがあるのかを判断できなくなってしまうから、これはひどく重要なポイントだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米バージニア州の大学で銃撃、3人死傷 FBIがテロ

ビジネス

再送-インタビュー:MUFG、成長投資に年8000

ビジネス

ドル一時159円69銭、1年8カ月ぶり高値更新 直

ワールド

イラン新指導者モジタバ師、おそらく生存も「ダメージ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 4
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 5
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story