コラム

情けない軽犯罪とルール違反が標準化するイギリス

2017年06月07日(水)16時30分

イギリス社会は公共意識が高いはずだが…… Hannah Mckay-REUTERS

<玄関マット泥棒、飼い犬の糞の放置、野外で騒ぐ酔っ払い、公園で堂々とマリファナを吸う若者たち......。どれも深刻な問題ではないが、小さな犯罪やルール違反がイギリス社会の日常になってしまったことは嘆かわしい>

朝食もとらないうちから、火曜日の僕の気分は最悪になった。

その前日、僕は数時間かけて庭の手入れをして、翌日のゴミ回収にそなえて木の枝や雑草を「庭ゴミ」専用袋に入れた。でも火曜日の朝、中身が回収されてから僕が表に出るまでの間に、誰かが袋を盗んだ。

この袋の値段は3.70ポンド(約530円)だ。

だから、なぜそこまで動揺したのかと思われるかもしれない。金額的に損したのはほんのわずか。でも別の見方をすれば、どうやったらこんなにも安いものを盗むほど哀れな人間がいるのか、と疑問に思えるだろう。

実際、これは過去最高にケチな例だったわけではない。以前は、家の前に置いておいたビン・缶リサイクル用の容器を盗まれた。この容器は自治体が無料で配っている。だが自治体に電話をして自分の分を受け取るよりも、道端から盗むほうが簡単だと思った人がいたようだ(だから僕は再び自治体に申し込まなければならなかった。容器はその日のうちに届いた)。

僕は隣人から学ぶべきだった。彼は庭ゴミ専用袋に自宅の住所をスプレーで大きく書いてある。明らかに盗難対策の予防措置だ。僕らの家は町の中心部(イギリス南東部エセックス州コルチェスター)にあって、たくさんの人がこの通りを通る。

【参考記事】「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

数年前、僕は玄関の外に敷く素敵なドアマットを買った。それから1週間もたたないうちに、誰かに盗まれた。たまたまそれは、セールで買ったものだった(2.5ポンド)。案の定、店に行ってみるとまだセールで売っていたので、もう一度新しいマットを買いなおした。

いまだに僕は、とんでもないのはいったいどちらのほうだったのか、分からずにいる。僕が同じ間違いをまた繰り返したことのほうか、それともまさにその翌日におそらく同一人物が新しいマットをもう一度盗んだことのほうか?

よく日本人の友人から、イギリスでの生活はどう? と尋ねられると、僕はこう話す、ドアマットを誰かに盗まれた......2度も(ちょっと頭のなかでその状況を思い浮かべてほしい)。

このブログの読者なら、僕がひどく頭にきているのは、個々の盗みのことではないし、金の問題でも迷惑をこうむったことでもなく、こうした低レベルの犯罪があまりにも日常化しているという事実だということが分かってもらえるだろう。これはイギリス生活のバックグラウンド・ミュージックみたいなものだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story