コラム

トランプ勝利で実感するイギリス君主制の良さ

2016年11月18日(金)16時00分

Hnnah Mckay-REUTERS

<エリザベス女王を国家の象徴とするイギリス政治はこれまで「古くさい」と言われてきたが、アメリカ大統領選でトランプが勝利したのを見れば、あらためてその利点が見えてくる>(写真:トランプ勝利に抗議してロンドンのアメリカ大使館前に集まった人たち)

 僕がアメリカで暮らしていたとき、アメリカ人たちは時々、僕が「君主制の国」から来たことをからかった。彼らはアメリカという国の「市民」だが、イギリス人は「女王の服従者」だと言って僕をイラッとさせようとするやつらもいた。

 彼らが言いたかったのは、君主制は過去の時代の愚かな遺物であり、イギリスは共和制国家よりも民主主義のレベルが低く、自由度も劣るというわけだ。

 彼らの見方もある程度は理解できる。もしも僕が国を一から作り上げるとしたら、究極の特権階級の家族を1つ据えて、彼らに多くの城と宮殿を与え、彼らを国民の税金で支え、生まれた第1子を国家元首にしよう......などとは決して思わないだろう。そんな考えはばかげて見える。

 でも概して、イギリスの立憲君主制はうまくいっているようだ。だから僕はおずおずとながら、君主制擁護派になっていた。この考えには良心の呵責もあるが、僕は消極的ながらも君主制主義者であると認めざるを得ないだろう。もしも君主制をやめるとなれば大混乱が巻き起こるだろうし、長い伝統に背くことになるし、その結果が必ずしもよいものになるとはかぎらない。

【参考記事】「ブレグジットには議会承認が必要」英判決でこれから起こること

 君主が物知り顔で権力を行使し、行き詰った局面を一気に打開したことも何度かあるし(1921年には英政府とアイルランド反政府勢力との和平協議を後押しした)、憲法上の危機を解決するために介入したこともあった(1910年には貴族院が予算案を否決するのを阻止した)。大まかにいえば、僕は「壊れない限り、修理する必要なし」との考え方で、君主制に賛成している。

 米大統領選の一部始終を見ていると、僕はそれでも立憲君主制の長所をまだまだ甘く見ていたと痛感させられる。政治の外側にいる人物を国家元首に持つということには、とても便利な側面があるのだ。

 イギリスのエリザベス女王は、世界に向けたイギリス国家の代表だ。彼女は多大なる威厳と確かな良識を持って、その役割を果たしている。そしてアメリカでは、次期大統領に決まったドナルド・トランプが間もなく、世界に向けたアメリカの顔になるだろう。

 米大統領選は、苦々しく分裂を招くものだった。ついでにいえば、得票数ではトランプよりもヒラリーのほうが上だったらしい。それでも結果は、トランプが国家元首となりアメリカで最も大きな権力を持つ男になるというだけでなく、直接選挙で選ばれたゆえに強力で個人的な委任を国民から受けた男、ということになる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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