最新記事

EU離脱

「ブレグジットには議会承認が必要」英判決でこれから起こること

2016年11月4日(金)23時54分
ジョシュ・ロウ

9月にロンドンで行われた残留派のデモ Luke MacGregor-REUTERS

<主権は再び国民から議会に委ねられた。国民投票で決まったブレグジットそのものは覆せなくても、ハードブレグジットは避けられるかもしれない>

 テリーザ・メイ英首相には衝撃だ。ロンドンの高等法院が木曜に、イギリス政府がEU基本条約第50条を発動してEU離脱交渉を開始するには、議会の承認が必要だという判決を下したのだ。判決は、政府独自の判断で来年3月末までにEUに離脱通知をするというメイの方針に不満の市民団体の訴えに応じたもの。

 これは画期的な判決であると同時に、国民投票パワーの前に存在意義を問われていた議会制民主主義に大きな力を与えるものだ。

 今後起きるのは次の4つだろう。

1)ブレグジット支持派の議員がやかましくなる


 厳密に言うと、これはもう始まっている。イギリス独立党(UKIP)を率いて離脱を主導したナイジェル・ファラージュ暫定党首は、あのトランプを思わせる口ぶりで、第50条の発動を阻止したり遅延させようとする議員は「どれだけ国民から怒りを買うか全く分かっていない」とまくし立てた。

 あるパーティーでも「エリート政治家」をやり玉に挙げ、延々と批判した。授賞式後に発表した声明では「我が国のエリート政治家たちが、EU離脱を決めた国民投票の結果を受け入れないことを懸念する」と述べた。

 とはいえ、ファラージュなどのブレグジット支持派は大して心配していない。議会の大多数が残留支持派だとはいえ、6月23日の国民投票で有権者が示したEU離脱という結論を議会は反故にできないと高をくくっている。

2)最高裁で敗訴する

 メイの報道官は、高等法院の判決を受けて「失望」を表明し、政府は最高裁に上訴した。

 もし最高裁でも同様の判決が出た場合、英政府はEU離脱に向けた戦略の見直しを迫られるだろう。最高裁での審理は12月までかかる予定だ。

 最高裁で敗訴が確定すれば、英政府の次の一手は何になるだろう。再び裁判を起こすとなれば、可能性があるのはEU司法裁判所だが、EU離脱のやり方をEUの裁判所に聞くのは得策ではないだろう。

3)結局議会もブレグジットに同意する

 そもそも議会は、結局ブレグジットに反対しない可能性もある。議員の大半がイギリスのEU残留を望んだとはいえ、国民投票で決まった限り、議会が民意に反してEU離脱を妨げるのは政治的に極めて困難だ。

 ただし今回の裁判は、今後イギリスがEUとどのような離脱交渉を進めるかに影響を与える可能性がある。50条を参照すると、離脱を決めた国の政府はEUとの交渉戦略をかなりの部分を明示する必要があると解釈できる。議会はこれを逆手にとって、EU単一市場には残留することを求める「ソフトブレグジット派」は、単一市場からの離脱も辞さない「ハードブレグジット」路線に傾く英政府から譲歩を引き出すため、場合によってはEUとの交渉を阻止または遅延させると脅すかもしれない。

4)法務長官を更迭する

 ジェレミー・ライト法務長官は、今回の裁判で政府側の立場を主張したが、失敗に終わった。

 英タイムズ紙の記者サム・コーテスは木曜日の朝、今回の裁判をめぐる政府側の弁護団の仕事ぶりについて、官邸が不満を抱いているとツイッターに投稿した。今のところ、メイにはライトを処分するつもりはなさそうが、今後の彼の処遇や、弁護団の総入れ替えがあるかどうかは注目だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中