コラム

イギリス人(の中年)の果てなき鳥への愛

2015年06月26日(金)13時00分

 子供が虫に興味を引かれて立ち止まるのは、そういう年齢に成長したという確かな証し。イモムシの手触りを楽しみ、テントウムシを夢中で集め、アリをいじめて遊ぶ。

 だから、ここ数年で僕が鳥に興味を持ち始めたのは、自分が中年になった証拠なんだと思う。これまでの人生の大半において、鳥なんか僕にとってはどうでもいい存在だった。かなりレアなケース、たとえば、大聖堂のてっぺんにハヤブサのつがいが巣を作っているよ、とか、公園の湖にカワセミがいた、とか誰かに言われた場合は、多少は興味を引かれたかもしれない。でも身近な鳥や庭に来るような鳥には、ほとんど興味ゼロだった。

 それが変わってしまった。自分の庭を手に入れたのが、大きな転機だった。さまざまな「訪問者」を眺めるのが楽しくなったのだ。夏の夕方になるといつも美しい鳴き声が聞こえる。あまりに美しいので、鳥のなかで最高の鳴き声といわれるナイチンゲールだと思ったほどだ。結局突き止めてみたら、ただのブラックバードだったのが分かった。これはみんなが言うことだけれど、ブラックバードの高らかな鳴き声を耳にすると、誰しも自分のためだけに歌ってくれているのだと思わずにはいられない。

 去年、庭の塀に開いた小さな穴にコマドリのつがいが巣を作った。彼らは僕の忠実なる友人になった。僕が庭に出ると必ずそばに寄ってきて、僕を眺めていたものだった。彼らがさよならも言わずにいなくなった時は悲しんだし、翌年に戻ってきてくれなかったのも悲しかった。

■知られざるコマドリのダークな部分

 戻ってこなかった理由は、たぶんオスが死んだからだろう。コマドリはとても短命で、その大きな理由は縄張りを守るために互いに死闘を繰り広げるからだ。イギリス人はコマドリの赤い色をした胸をかわいいと思っている。こんな伝説まである。十字架にかけられたイエス・キリストを慰めるために飛んでいき、イエスから滴り落ちた血に染まって赤くなった――。

 でも実際のところ、赤い色は自然界では「警告」のサインだ。コマドリは互いに攻撃的で、人間に近づいてくる「フレンドリー」な性格だと思うのは勘違い。単に擬人化してそう思い込んでいるだけだ。むしろコマドリは人間のことを、土をいじって虫を掘り起こしてくれるうえ、動きがのろいから危険はない存在だと考えているだろう。

 このブログが「自然」について語るものではないのは十分に承知しているので、こんなテーマについて書くのもご容赦願いたい。僕が言いたかったのは、イギリス人がいかに鳥に魅了されているか、という点なのだ(しかも僕が以前に感じていたよりもずっと奥深く魅了されているらしい)。これはイギリスの隠れ文化の1つともいえる。それに、鳥は最近、イギリスのニュースまで飾っている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英下院が福祉制度改革法案可決、与党議員大造反で首相

ワールド

日本と合意困難、対日関税「30─35%か、米が決め

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック反落、ハイテク株に

ビジネス

米ISM製造業景気指数、6月は49.0 関税背景に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story