コラム

イギリス人(の中年)の果てなき鳥への愛

2015年06月26日(金)13時00分

 イギリスにはこれまで、「国鳥」がなかった。だから、それを選出するための全国世論調査が行われたのだ。今月その結果が発表され、僕は愛するブラックバードが3位だったのを聞いてひどくがっかりした。1位はコマドリ。イギリス全域に生息しているし、誰もが知っている鳥だからだと思う。

 それに、クリスマスの感傷と共に思い出される鳥だからだろう。コマドリの絵はクリスマスカードによく登場するが、多分その赤い胸の色が白い雪によく映えるからだと思う(十字架のキリストとのエピソードが登場したのはもっと後のことで、いま考えるとクリスマスとコマドリを関連づけるためだ)。コマドリが四六時中、殺し合いをしている鳥だなんて、誰も知らないだろう。

■白鳥の目に震え上がった

 コブハクチョウがトップ10入りしたのにも驚いた。僕はオックスフォードで過ごした大学時代以来、白鳥には特別な恐怖心を抱いている。当時、川でボートを漕いでいると、白鳥が数分間そばを「伴走」することがあった。多くの人にとって白鳥はエレガントに見えるかもしれない。でもそれは、白鳥ときちんと向き合ったことがないからに違いない。

 覆いのないむき出しのボートに座る人間と、ちょうど同じ高さにある白鳥の、ビーズみたいな目の恐ろしいことと言ったら。子連れの白鳥はとりわけ攻撃的で、怒りの声を挙げながら翼をばたつかせて向かってくれば、本当に危険な存在になることだってあるのだ。

 ともかく、鳥はイギリス人の生活の重要な部分だ(特に中流階級の、中年にとっては)。誰しも好きな鳥、嫌いな鳥など、鳥についての持論がある。例外なく嫌われているのは、カササギ。他の鳥のヒナを襲うからだ。イギリス人はかなり頻繁に自分の庭についておしゃべりするが、そのときにはどんな鳥がやってくるかも話題になる。

 イギリス人は鳥用のエサ台とエサを買う(スーパーで売っているのを知って僕は驚いた)。もしも猫が嫌いと言う人がいたら、その理由の第1位は、鳥を殺すからだ。僕が最近になってやっと気付いたことだけど、イギリスでは芸術作品に、中世の時代から多くの鳥が描かれてきた。イギリスは動物を愛するのと同じくらい、鳥を愛する国だ。

 もう一度言うが、僕が鳥に興味を持つようになったのは、人生のあるステージにさしかかったからだろう。そして同時に、より「イギリス人らしく」なった証しでもあると思う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、成長率とインフレ率見通し一部上方修正=スタ

ビジネス

米11月CPI、前年比2.7%上昇 セールで伸び鈍

ビジネス

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story