コラム

フーリガンの「パリ事件」に隠れた逆差別

2015年03月05日(木)12時14分

 フーリガンと一緒に地下鉄に乗り合わせたチェルシーのサポーターの何人かはメディアの取材に対して、黒人以外の他の乗客数人も乗車を邪魔されていたと語っている。

 1人だけでなく何人もの人々に迷惑行為を働いているから、より悪質だと考える人もいるかもしれない。でも今のイギリス社会を考えれば、これはむしろホッとする話だった。「白人相手にもやったのだから、それほど悪くない。黒人を選んだわけじゃない。人種差別ではなかった」というわけだ。

 この話には階級の問題もからむ。中流層はたいてい、労働者階級のサッカーファンをひどく不快な集団と考えている。彼らを蔑称で「ネアンデルタール人」と呼ぶのはよくあることだ。確かにサッカーファンの振る舞いには時に、眉をひそめたくなるものがある。でも多くのファンが感じているのは、当局やリベラルなメディアは人種的マイノリティーの権利や利益を積極的に守ろうとするくせに、自分たちのことは真っ先に非難する、ということだ。

 例えば2月半ば、ジャーナリストがユダヤの民族衣装の帽子をかぶってパリのイスラム地区を歩き、隠しカメラで人種差別を受ける様子を撮影した動画が話題になった。だがこの出来事は、パリの地下鉄事件ほど広く報道されていない。

 地下鉄に乗ろうとした黒人男性が押し戻される光景は不快だし、正当化はできない。でも彼らフーリガンの行動は、あからさまな人種差別というよりむしろ、反・人種差別を叫びまくっている世間に対して突きつけた「クソくらえ」のメッセージに見えなくもない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

BRICS、富裕国に気候資金拠出要求 「途上国に対

ビジネス

日産自、総額7500億円調達へ 転換社債と普通社債

ビジネス

景気一致指数、5月0.1ポイント低下 判断「悪化」

ビジネス

マクロン仏大統領、エアバスとマレーシア航空の「歴史
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story