コラム

雪の朝に聞こえる心地いい音の意味

2010年02月12日(金)14時26分

 先週末、物音で目が覚めた。ニューヨークに来てからこの音にはすっかり慣れた。何かをこするような音だ。でもちっとも不快じゃない。金属やコンクリートをひっかくような音ではなく、ビニールをこすっている感じといえばいいだろうか。僕はすぐに分かった。今日は雪が降っているに違いない、と。

 風や雷やひょうなどの激しい気候と違って、雪は静かだ。たいていは、このこすれるような音で初めて気付く。それは、近所の人たちが家の前に積もった雪をかいている音。

 人々が自分で雪かきをするアメリカの風習には感心する。イギリスでは雪がめったに降らないし、降ってもすぐに溶けてしまうから、雪かきを自分でするという考えはない。そもそもイギリス人はこうした仕事は役所がやるべきだと考えている(今年の冬はイギリスでも大雪が降ったが、道路の雪を溶かすための塩を政府が十分に用意できずに大騒ぎになった)。

 アメリカでは雪かきは自助努力のようだ。僕からみると、コミュニティーがその責任を負っているようにみえる。降ったばかりの雪を道路の端の溝に落とすのは難しくない。けれども人々がその上を踏み歩くと、凍りついてなかなか消えない。人々が自分の家の前の雪かきをすれば、町中の雪がきれいになり、歩行者が足を滑らす危険はなくなるだろう。たとえ小さな努力でも大勢の人が行動すれば、社会にとって大きな利益になるといういい見本だ。

 それに雪かきは、住んでいる地域の住民に恵まれているかどうか、という指標にもなる。誰もが雪かきに取り組む貧しい地域では、人々のミュニティー意識が高いといえるだろう。道路の端から端まできれいになっているとしたら、年寄りのために誰かが雪かきをしたのに違いない。

 だから土曜日の朝、僕を起したひっかき音は元気を与えてくれる心地いい音なのだ。

雪の朝1

雪の朝2

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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