コラム

NYで一番おいしいベーグル店

2009年10月26日(月)11時43分

 やっほーぃ! 僕の家の近所にあるベーグル店が、ニューヨークで1番おいしいという評価を受けたことが分かった。

「ニューヨーク1の~」というフレーズは、ありとあらゆる食べ物に使われる。ニューヨーク1のピザ、ニューヨーク1の10ドル以下の食事......。これらの「称号」はたいてい、かなり前の世論調査や雑誌の記事を根拠にしている(例えばタイムアウト誌04年10月号だったり、あるいはニューヨーク誌の評論家が選ぶレストランのコーナーだったり)。

 それでも僕は、ベーグルに関する評価については信じたいと思う。 最近、ニューヨークを代表する2つのメディア――ケーブルテレビのNY1とニューヨーク・デーリー・ニュース紙――が、あるサイトのコンテストでブルックリンの「ベーグル・ホール」がベスト・ベーグルに選ばれたというニュースを紹介したのだ。他のニューヨーカーと同様、僕も自分の住んでいる場所がとても素晴らしいとか、流行のエリアだとか、ひどく過小評価されているとかを語りたくなる。そして、自分の主張を裏付ける「証拠」があれば、それに飛びつく。

 ブルックリンの店がマンハッタンのライバルたちに勝ったのは、快挙といっていい。ベーグル・ホールは、ブルックリンの基準でもファッショナブルとは言い難い。「壁に穴があいた」くらいの小さな店で、 うっかりすると通り過ぎてしまいそうになる。

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パーク・スロープのおしゃれな側とは反対の端にあり、僕の新しいアパートからはとても近い。

 ニューヨーカーにベスト・ベーグルを尋ねれば、たいていの人は地元民にも観光客にも人気の「H&Hベーグル」を挙げるだろう。アッパーウエストにあるH&Hベーグルの店の近くに住む友人の友人によると、 はるかイスラエルからベーグルを買いに来る人もいるという(イスラエルからやって来た観光客が噂を聞きつけてベーグルを買っただけなのだと思うが)。

 ダウンタウンの「マレーズ・ベーグル」やアッパーウエストの「アブソルート・ベーグル」も、おいしいベーグル店としてよく名前が挙がる。だが、ウェブサイトの「seriouseats.com」が行ったベーグルコンテストで選ばれたのは、ベーグル・ホールだった。

 ブラインドテストによって行われたコンテストの審査員によれば、同店のベーグルはパリッとした皮と弾力のある中身の絶妙のコントラストがいいのだとか。伝統的な材料を使用し、砂糖は使っていない。

 このニュースを見た後、すぐに店に出かけて、ゴマとケシの実のベーグルを1つずつ買った。合わせて1.6ドル。

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 タイミングもよかった。ちょうど焼きあがったばかりで、家に持ち帰ってもまだ温かかった。ベーグルの真の愛好家によると、焼きあがって30分もすると味が落ち始めるそうだ。ベーグルをトーストするのもご法度だという。(白ワインを冷やし過ぎるようなものらしい。つまり、質のよくないものは味をごまかせるが、最高品質のものの場合は味を殺してしまう)。

 早速、クリームチーズとコーヒーという伝統的な食べ方でおやつを楽しんだ。トータルコストは約2ドル。ささやかな人生の楽しみ。

 ベーグルは不思議な食べ物だ。好物ではあるが、どうやっても具がはみ出てしまって、なかなかうまく食べられない。マヨネーズであえたツナが穴から飛び散ったこともある。2000年に初めてこの街を訪れたときに「ニューヨークに住む経験」の1つだと思ってたくさん食べたため、今ではすっかりベーグルに慎重になっている。あのとき10週間の滞在で10キロも体格が立派になったのには、ベーグルも貢献しているはずだ(ベーグルは高密度でカロリーが高い)。

 ベーグルを食べてから、ベーグルコンテストを報じた記事を読み直してみた。面白いことに、同店のベーグルを評価する理由に、比較的サイズが小さいことが挙げられていた。最近は大きなベーグルがトレンドだ。だから食べ過ぎてしまう。そう審査員たちは述べている。

 でも、小さいのがいいかどうかは疑問だ。僕は1度に2つ、ガツガツと食べてしまった。お腹がふくれ過ぎて、少し後悔している。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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