コラム

ニューヨークの地下鉄は「非アメリカ的」だ

2009年04月23日(木)14時59分

 地下鉄というのは、街の性格を映し出すものだ。東京の地下鉄は清潔で、効率的かつ巨大。でも、ひどく混んでいる。ロンドンの運賃は高過ぎる。ロンドンの地下鉄が最先端とみなされた時代は100年も昔のことだ。

 ニューヨークではイライラさせられたり、驚かされたりする。そして、この国では車が王様なのだということを実感する。

 ニューヨーク州都市交通局(MTA)は、地下鉄とバスの運賃を約25%も値上げする計画だという。デフレに陥りかけているというのに、なんと法外な値上げだろう(ただし、この値上げが撤回される可能性は残っている)。

 もちろん、ニューヨークの地下鉄にはいい面もたくさんある。例えば24時間運行している点。終電のある東京のように、地下鉄が僕らを「寝かしつける」ことはない。

 一方でひどく時代遅れな部分もある。ほとんどの駅には次の電車がいつ来るかを知らせる電光掲示板がない。人々はホームに身を乗り出して、トンネルの奥を見つめることになる。

 ニューヨークは予測される人口の増加に対処し、環境にやさしい都市を実現するため、交通システムの改革を掲げている。でも昨年、それを実現するための大きなチャンスを逃してしまった。都心に乗り入れる車に課金し、その税収を交通網改革に充てるという「渋滞税」の導入案を州議会が否決したのだ。

 ロンドンは03年にいち早く渋滞税を導入して高い評価を得ているが、ドライバーに不利益をもたらす税の導入は、アメリカ人にはまだ受け入れられないのだろう。

■どれだけ乗っても片道たったの2ドル

 外国人の目から見ると、他にも驚くことがある。まず、ニューヨークの地下鉄の運賃はとても安い! 値上げに対する怒りの声はあるけれど、地下鉄とバスが乗り放題のパスが30日間で103ドル。値上げ後の値段で、だ(現在は81ドル)。ロンドンや東京の定期券と比べると驚く安さだ。

 それともう1つ不思議でならないのは、距離に応じて運賃が変わらないことだ。地下鉄の片道乗車券は距離に関わらず2ドル。30キロ離れた北ブロンクスからコニーアイランドまで乗っても、わずか500メートルの距離のベバリー・ロードからコーテルユー・ロードまで乗っても運賃は同じ。

 この潔いまでのシンプルさは、長所でもある。ロンドンのようなゾーン制(中心部から6つのゾーンに分けて料金を設定)を導入すれば、郊外に住む貧しい人は打撃を受けるだろう。それでも利用距離の短い人が負担を強いられるのは、とうていフェアとは言えないだろう。サービスの内容が異なるのに同じ値段を請求するのは、何だかアメリカらしくない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米韓が通商合意、自動車関税15% 3500億ドル投

ビジネス

ホンダ、半導体不足でメキシコの車生産停止 米・カナ

ビジネス

イスラエル、ガザ停戦協定の履行再開と表明 空爆で1

ワールド

印パ衝突、250%の関税警告で回避=トランプ氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story