コラム

EU・インド急接近で変わる多極世界の地政学...「新スパイスの道」構想は前進するか

2025年03月28日(金)13時20分

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4800キロに及ぶインド・中東・ヨーロッパ経済回廊(IMEC) By ecfr.eu, CC BY-SA 4.0(日本語は筆者による)

一帯一路が、かつてのシルクロードを思わせるものなら、IMECは、かつてヨーロッパ人が香辛料を求めて大航海に旅立った時代の「スパイスの道」を連想させる。

インド西岸からアラブ首長国連邦まで海路でつながり、鉄道で中東(サウジアラビア、ヨルダン)を経由してイスラエルへ、そして再び海をわたり、ギリシャ(またはイタリア、フランス)経由でヨーロッパへとつながる、野心的なネットワークの構想である。基本的には、既存のインフラを使うことになっている。

このルートには、水素パイプラインと海底光ファイバーケーブルの敷設が期待されている。

もともとの目的は?

バイデン前大統領が、同盟国(アラブ首長国連邦、サウジアラビア、イスラエル)と共にこのイニシアティブを立ち上げたと言われる。

もともとは、中東におけるイランの影響力を念頭に入れ、イスラエルと中東諸国との関係正常化を強化する意図があった。そこに欧州を加えることで、インド太平洋における戦略を強化し、一帯一路による中国の影響力に対抗することを考えたのだ(ちなみに、イタリアは一帯一路から抜けて、こちらに入っている)。

インドには中心的な役割が与えられており、中国による包囲網から脱することができるようになる。スエズ運河に代わるものをという必要性も満たす。日本も他人事ではいられない。今、中東情勢のために、日本の海運大手(日本郵船、商船三井、川崎汽船)はスエズ運河を航行できないでいる。

しかし、問題が山積みだ。何と言っても6000億ドルと言われる資金と、中東情勢の不安定さである。最大の試練はステークホルダーの意欲と言われている。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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