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マクロスコープ:不動産売買規制、熱帯びる議論 東京・千代田区が異例の要請

2025年08月21日(木)10時59分

 8月21日、都心部のマンション価格の高騰を受けて、売買規制に関する議論が熱を帯びている。写真は都内のスカイツリーからの景色。2021年8月撮影(2025年 ロイター/Marko Djurica)

Yusuke Ogawa

[東京 21日 ロイター] - 都心部のマンション価格の高騰を受けて、売買規制に関する議論が熱を帯びている。今年7月、東京都千代田区は新築物件の転売防止策を強化するよう、業界団体の不動産協会に要請した。投機的な取引を抑えて過度な値上がりを防ぐのが狙いで、同区としては初めての試みだ。不動産購入を巡る不満が国民の間で高まる中、参院選で争点となった外国人の取得問題を含め、国や自治体で対策が広がる可能性がある。

「事前の説明もなく、とても驚いた。区の考えを理解しかねている」。千代田区による異例の要請について、不動産協会の野村正史専務理事はロイターの取材にこう打ち明けた。両者の間で論争が始まったのは7月18日。再開発事業などで区が関与する一部マンションを対象に、引き渡しから原則5年間は転売できない特約条項をつけるよう求めたのがきっかけだ。文書には、同じ物件を同一名義で複数購入することを禁じる内容も盛り込まれた。

千代田区の担当者は「投機目的の売買が増えれば価格が上昇し、区に住みたい人が住めなくなる恐れがある」と説明。空き住戸の増加による治安悪化も懸念する。

もっとも、不動産業界は三井不動産や三菱地所をはじめ大手5社がそろって前期決算で最高益を更新するなど好況に沸く。今のムードに水を差しかねない要請に対し、協会側は「価格の沈静化に本当に効果があるのか。行政指導の一環であれば、裏付けとなるデータを詳しく説明するべきだ」と反論。「財産権を侵害する恐れもあるため、対応を慎重に検討する必要がある」として、区との協議は平行線のままだ。

ただ、マンションの値上がりが急ピッチで進むだけに、ほかの自治体でも同様の取り組みを導入する事例が出てくるかもしれない。不動産経済研究所によると、25年上半期(1-6月)の首都圏新築マンションの平均価格は前年同期比17%増の8958万円。東京23区に限れば20%増の1億3064万円だった。用地不足に加え、建設作業員の人件費や資材コストの上昇が価格高騰を招いている。

直近の7月も首都圏が1億0075万円と3月以来の1億円超え、東京23区は1億3532万円と騰勢が続く。

<外国人の投機的購入、値上がりに拍車>

さらに、物件の値上がりに拍車をかけているとみられるのが、海外の投資家や富裕層による投機目的の購入だ。三菱UFJ信託銀行が都心3区(千代田区・港区・渋谷区)のマンション販売業者に行った調査では、外国人が取得した割合について「2-4割」と回答した企業が6割を占めた。円安を背景に購買力を増しており、「半分以上」と答えた企業も1割近くあった。

国土交通省はこうした事態を重く見て、今年度から外国人による取引の調査に乗り出している。

海外勢の購入を巡っては今夏の参院選でも争点の一つとなった。国民民主党は不動産を取得しながら部屋には住まない外国人に「空室税」を課すと公約に明記。石破茂首相はテレビ番組で「日本人が普通に働いて23区で部屋を持てないとすればおかしい」と述べ実態把握に取り組む考えを明らかにしており、政策として実際に動きだす可能性もある。

金利上昇局面に入り、一般世帯にとって住宅ローン負担の懸念は強まるばかりだ。不動産情報サイト運営のライフルが住宅購入検討者にアンケートしたところ、「ローンを払いきれるか大いに不安がある」と回答した人の割合は7月時点で約57%に達し、半年前から約7ポイント上がった。

不動産市場に詳しいオラガ総研の牧野知弘代表は「日本に住民票を置く在留外国人については日本人と同等に扱うべきだ」との見方を示した上で、「バブル経済期に国内で導入された、不動産の超短期譲渡(保有期間2年以内)への重課税を復活させてはどうか。これならば外国人に限らず、いわゆる『転売ヤー』の動きを網羅的に抑制できるだろう」と話した。

(小川悠介 編集:橋本浩)

ロイター
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