コラム

欧米との協力関係の陰に潜む、インドのネット世論操作の実態とは?

2023年10月16日(月)17時00分
9月、インドで行われたG20にて。バイデン大統領とモディ首相。

9月、インドで行われたG20にて。バイデン大統領とモディ首相。Evan Vucci/REUTERS

<インドはロシアや中国と肩を並べるネット世論操作大国だが、その活動は欧米にはあまり知られていない。国内外での操作とその影響について詳しく掘り下げ、インドのネット世論操作の実態を探る......>

誤解のないように最初に申しあげておくと、インドを独裁国家に分類したのは私ではなく、国際的な民主主義の指標として有名なV-Demである。同組織は統治形態を、自由民主主義(Liberal Democracy)、選挙民主主義(Electoral Democracy)、選挙独裁主義(Electoral Autocracy)、閉鎖独裁主義(Closed Autocracy)の4つに分類しており、インドは選挙独裁主義に分類されている。複数の政党が存在し、選挙が行われるものの公正ではなく、自由など人権に制限がある状態だ。なお、もうひとつの有名な民主主義指数では瑕疵のある民主主義に分類されている。

クアッド(QUAD:日米豪印戦略対話)など日本とのかかわりも少なくないインドだが、その実態はあまり日本では知られていない。特にV-Demで独裁主義に分類されるような部分は見えていない。実は日本以外の国でもあえて話題にしていないようだ。

カナダを前面に出して様子を見る欧米

先日はインドの諜報機関がカナダ在住のインド出身者を殺害したという疑いが持ち上がり、カナダとインドの間では緊張した状態が続いている。インド政府が関与していたという情報は、アメリカも事前に知っており、ファイブアイズでも共有されていた可能性が高い。そのわりにアメリカなどファイブアイズ各国の反応が薄いのは、とりあえずカナダを前面に出して様子をうかがっているのだと指摘する識者もいる。欧米にとってインドを仲間から外すことは対中国の関係上好ましくなく、そのための配慮なのだ。一方、インドは欧米、特にアメリカが対中国のために協力的であることを最大限利用しようとしている。インドの外交上の武器は米国をはじめとする西側諸国との良好な関係なのだ。

インドが民主主義から遠ざかるにつれ、バイデン大統領が民主主義を口にすることが減ってきている。昨年は公の場で、「民主主義と独裁主義(democracy and autocracy)」(だいたい「の戦い」などの言葉がつく)と口にしたのは13回(イベントの数としては11回)だが、今年はまだ5回(イベントの数としては4回)だけで過去2カ月は全く口にしていないことがFactba.se(大統領発言のデータベース)を検索してみるとわかる。独裁色を強めるインドを配慮してのことかもしれない。

世界をリードするネット世論操作先進国

ネット世論操作はロシアや中国が有名でそれに続くのがイランだが、インドは歴史的にもその規模でもそれらに劣ることはない。ただし、インドはこれらの国と違って欧米のパートナーと考えられているため、たとえインドの企業や組織が関係していても、インド政府に結びつけられることがない。

国内向けでは選挙戦におけるネット世論操作は熾烈で、こちらに関してはさまざまな資料でとりあげられている。以前、記事にしたこともある。インド政府の関係が確認されていないのは国外に向けてである。また、与党に対する批判への抑圧も行われている。ネット世論操作を請け負う民間企業の存在も確認されている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story