コラム

ネット経由で世論を操作する「デジタル影響工作」の世界でも「ナノインフルエンサー」は活用されていた

2023年02月17日(金)19時50分

多くのナノインフルエンサーたちは選挙期間中に特定の種類のコンテンツを広めるよう勧誘され、報酬を受けとっている(写真はイメージ) TheVisualsYouNeed-shutterstock

<フォロワーの数はあまり多くないが、一定の影響力を持つナノインフルエンサーが、ネット経由で世論を操作する「デジタル影響工作」の世界でも活用されていた......>

ナノインフルエンサーという言葉はマーケティングの分野で目にする事が多い。フォロワーの数はあまり多くないものの、結びつきが強く一定の影響力を持つためニッチなジャンルでは効果があり、コストも安いと言われている。

ネット経由で世論を操作する「デジタル影響工作」の世界でもナノインフルエンサーは活用されていた。デジタル影響工作がテーマにするのはニッチなものが多いので相性はいい。デジタル影響工作黎明期の頃から積極的にこの問題に取り組んでリードしてきた人物=サミュエル・ウーリーはデジタル影響工作において、ナノインフルエンサーの活用が進んでいる実態を新刊の『Manufacturing Consensus』で報告している。

アメリカの2020年大統領選でもナノインフルエンサーたちは活躍していたことがわかっている。その背景には誰でも手軽にボットなどさまざまなツールを駆使できるようになったことがある。今回はナノインフルエンサーとジオ・プロパガンダについて紹介したい。

デジタル影響工作に最適なナノインフルエンサー

デジタル影響工作におけるナノインフルエンサーはフォロワー数5千以下のアカウントをさすことが多い。その利点はマーケティングにおける利点と同じだが、デジタル影響工作ならではのものもある。たとえば大手SNSではデジタル影響工作への対策が進んでおり、大規模な作戦を行えば検知され、排除されてしまうため、WhatsAppやTelegramなどメッセンジャーアプリによって小規模なコミュニティをターゲットにした作戦が増えている。ナノインフルエンサーはこうした小規模のコミュニティを使う作戦にうってつけだ。

現在、多くのナノインフルエンサーたちは選挙期間中に特定の種類のコンテンツを広めるよう勧誘され、報酬を受けとっている。彼らは他に職業を持つ一般人で、自分のフォロワーと親密でローカルなつながりをもっており、それゆえメッセージがより強く伝わる。また基本的にホームグロウン(現地の人間)であるため検知されにくい/規制の対象に入りにくいという利点もある。

ナノインフルエンサーは作戦の運用においては他の要素と組み合わせられることが多い。たとえばインドのデジタル影響工作を行うITセルネットワークは、個人のナノインフルエンサーと国家ベースのコンピューテーショナル・プロパガンダ、他の国家リソースの活用が組み合わさっている。

ナノインフルエンサーの中にはSNSのAPIあるいはアルゴリズムを利用して、トレンドに自分のコンテンツが掲載されるように操作している者も少なくない。サミュエル・ウーリーの調査では日本でもこうしたデジタル影響工作をPR業務として請け負うナノインフルエンサーが少なくない。

トレンドに掲載されることの目的は多くの人の目に触れること以上に、メディアに取り上げられることである。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。ツイッター

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