コラム

中国覇権の一助になってもRCEP参加がアジア諸国にとって賢明な訳

2020年11月25日(水)17時10分

昨年11月にバンコクで開催された第3回RCEP首脳会議で手をつなぐ各国首脳 Athit Perawongmetha-REUTERS

<アメリカの撤退によって勢力図が大きく変わりつつあるアジアで、中国が推進してきた自由貿易協定「RCEP」が完全ではないにせよ次善の策と言える理由とは>

11月15 日、アジア・太平洋地域の15カ国がRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に署名した。これにより、(内容は控えめだが)世界のGDPの30%をカバーする自由貿易協定が発足することになった。これは、中国、日本、韓国の3つの国が初めてそろって参加する自由貿易協定である。

もっとも、明るい面ばかりではなく暗い面もある。RCEPの誕生により、第2次大戦後に形作られたグローバルな国際秩序と経済秩序の崩壊が加速することは間違いない。

それでもこの協定は、アジアの国々が地域の地殻変動に対処する上で、完全ではないにせよ賢明な方策だ。中国が影響力を拡大させ、アメリカが関与を縮小させて影響力を減退させている結果、アジアの勢力図は大きく変わりつつある。

外交と交渉事における重要な原則の1つは、「ペンを握る者が議論の方向を定め、最終的な結果を決める」というものだ。

今日の世界で中国に対抗できる存在は3つしかない。アメリカ、EU、そして(まだ中国に肩を並べてはいないが)インドだ。ところが、4年前の米大統領選で勝利したドナルド・トランプは就任早々、米政府が旗振り役になってきたTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱してしまった。TPPは、アジアにアメリカ主導の経済秩序を構築して、中国の影響力を抑制することを目指していた。

アメリカがTPPから離脱したことで、日本などアジアの国々は難しい状況に追い込まれた。中国の経済力に圧倒されて、属国同然の立場に陥る事態を避けるためにはどうすべきか。アジアの国々が選択したのは二段構えの対応策だった。

第1に、アジア諸国などは2018年、アメリカ抜きのTPP(新しい呼称は「CPTPP」)を成立させた。アメリカの経済力で中国に対抗するという目的は果たせなくなったが、世界のGDPの約13%をカバーする自由貿易協定が成立した。

一方、中国はTPPに対抗するために、これとは別の自由貿易協定であるRCEPを推進してきた。中国政府は、参加国を増やすために、中国市場へのアクセスを改善することを約束している。アジア諸国の立場から言えば、RCEPはTPPやCPTPPほど包括的な内容でなく、アメリカが参加しない自由貿易協定では中国の影響力を相殺できない。

とはいえ、外交と交渉事のもう1つの原則も忘れてはならない。「参加しなければ、発言権を得られない」という原則だ。アジア諸国は、第2の対応策としてRCEPへの参加も決めた。中国の貿易慣行に対していくらかの発言権を確保し、中国市場へのアクセスを維持しようと考えたのだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story