最新記事

中国

RCEP締結に習近平「高笑い」──トランプ政権の遺産

2020年11月20日(金)17時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

RCEP首脳会合で15カ国が協定に署名(11月15日、ベトナムのハノイ) Kham-REUTERS

RCEPの締結は中国のコロナ禍早期脱出とトランプ政権の一国主義のお陰だと、中国は大喜びだ。日中韓FTAまで内包してしまい、インドの不参加、台湾経済の孤立化も中国には有利だ。インドやロシアとはBRICSで結ばれている。

「多国間主義と自由貿易の勝利」と中国

中国共産党の機関誌「人民日報」やテレビ局CCTVは、アジアの自由貿易協定であるRCEP(アールセップ=東アジア地域包括的経済連携)締結を「多国間主義と自由貿易の勝利」と一斉に讃えた。これはトランプ政権が唱えてきた「一国主義と保護貿易」の反対側の立場としての中国を自ら礼賛する言葉で、中国はRCEPの締結を米中覇権競争における「中国側の勝利」と位置付けていることを意味する。

周知の通り、トランプ大統領は就任するとすぐにTPPからの離脱を宣言した。 

今般のRCEP締結にはアメリカを筆頭とした「カナダ、メキシコ、ペルーおよびチリ」などアメリカ大陸以外のTPP加盟国(日本、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、マレーシア、シンガポール、ブルネイ)が参加しており、TPPには加盟していなかったASEAN(東南アジア諸国連合)諸国(インドネシア、タイ、フィリピン、カンボジア、ラオス、ミャンマー)とともに中国と韓国が加盟したので、結果、「提唱国であったASEAN10ヵ国+日中韓+オーストラリア・ニュージーランド」計15ヵ国の参加となった。

中国が積極的になったのは、言うまでもなくアメリカとの対立があるからで、いち早くコロナ禍から抜け出した中国は経済も回復しており、コロナで経済発展が低迷している周辺国を惹きつけるに十分であったと中国は分析している。

ASEAN諸国は政治的にはアメリカ寄りではあるものの、経済的には中国に頼らざるを得ず、中国はまるでASEAN諸国を中国の中庭と位置づけ胸を張っている。

日本は、あたかも日本の努力によってRCEP締結に漕ぎつけたかのように解説する傾向にあるが、中国は全くそうは思っていない。なぜなら日本を引き寄せるのは、中国にとって大きな利益をもたらすからだ。そのため日本が「日本の努力によって」と言ったとしても、それは「言わせておこう」という姿勢で、結果として日本が加盟してくれさえすれば、中国としては大いに満足なのである。

アメリカに当てつけた日本への執着

中国にとっては、日本はアメリカを代替するような存在で、何としても日本にはRCEPに加盟してほしかった。RCEP加盟国の中で断トツのGDP規模を誇る中国だが、アメリカの最大のパートナーである日本を加盟させなければRCEPの「旨味」はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去

ビジネス

「空飛ぶタクシー」の米ジョビ―、生産能力倍増へ 

ビジネス

ドイツ経済、26年は国内主導の回復に転換へ=IMK

ワールド

豪首相、ヘイトスピーチ対策強化を約束 ボンダイビー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中