最新記事

中国

RCEP締結に習近平「高笑い」──トランプ政権の遺産

2020年11月20日(金)17時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

アメリカが離脱したTPPを日本は「アメリカなしでも」何としても成立させたが、その日本を「中国が頂く」ということになれば、対中強硬策を続けているアメリカには「良い当てつけになる」と中国は見ているのである。またASEAN諸国にしても、たとえ経済面だけではあっても中国にのみ頼り切るのは本意ではないだろう。中国もそのことは分かっている。

そこで日本がいてくれさえすれば、「アメリカの向こうを張って」かつ「中国がGDP規模ではトップ」という状態でRCEPを運営していくことが出来ると中国は計算しているわけだ。

中国大陸のネットでは「中国を中心とした大東亜共栄圏」という言葉までがチラホラ出て来るような雰囲気なのである。

だというのに菅首相は10月26日における所信表明演説で中国包囲網の戦略であったはずの「自由で開かれたインド太平洋構想」から「構想」の2文字を外し、「自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す」と述べただけでなく、11月14日の日中韓3カ国とASEANの首脳会議にオンラインで参加した後、記者団に対し「ASEANと日本で『平和で繁栄したインド太平洋』を共につくり上げていきたい」と語った。

なんと、「自由で開かれたインド太平洋」とさえ言わずに、「平和で繁栄したインド太平洋」と言い換えたのである。

何という中国への気の遣いようか!

菅首相には期待していただけに残念だ。

ASEAN諸国への気遣いだとすれば、なおさらASEAN諸国がどれほど中国の「中庭」にいるかの証しであり、日本の役割としては逆ではないのだろうか。ASEAN諸国が日本に期待しているのは「中国への忖度」ではなく、中国にものが言える日本だろう。

事実上の日中韓FTA――「アジア元」への一歩

RCEPには「日本・中国・韓国」が対等に参加しているので、中国から見れば事実上の日中韓FTA(自由貿易協定)を締結したのに等しい。詳細に言えば違う側面もあろうが、蓋然的には似たようなものだ。

中国があれだけ積極的に動いたにもかかわらず、難航していた日中韓FTAが、むしろ日本が積極的に入る形で、RCEPを通して実現してしまった。

日中韓FTAが成立すれば、中国としては日米と米韓を心持ち離間させることに成功するだけでなく、アメリカの対中制裁を避けて交易を継続することが出来る項目が増えてくる。

それ以外にも中国には早くから目論んでいる狙いがある。

それは白井一成氏との共著『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』で中国問題グローバル研究所の中国側研究員である孫啓明教授が説明している「アジア元」の実現に向けての一歩を踏み出したいという遠景だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中