コラム

アメリカのシンクタンクが世界を動かす力を持つ理由

2019年11月14日(木)17時35分

magSR191114_ThinkTanks3.jpg

カーネギーの友人で、やはり理想に燃える大富豪だったロバート・ブルッキングスも民間の研究機関を設立した ARCHIVE PL-ALAMY/AFLO

こうしたシンクタンクの発展を支えたのは学者をはじめとする情報提供者、つまりスパイの先駆けだ。第一次大戦後の1919年、ウッドロー・ウィルソン米大統領はパリで開かれる講和会議に赴くには専門家の助言が必要だと考えた。この会議では、複雑な問題が協議される上、敗戦国ドイツの領土を狙う戦勝国のフランスやイギリスに対抗して、アメリカの立場を打ち出さねばならない。

かくしてあらゆる分野から情報を収集するアメリカ初の調査機関「インクワイリー」が誕生。ウィルソンはそのメンバーである学者たちをパリに同行させ、彼らの分析を参考にベルサイユ宮殿の輝くシャンデリアの下で各国首脳と渡り合った。

magSR191114_ThinkTanks4.jpg

ベルサイユ宮殿での調印式に臨んだ各国首脳。前列右端のウィルソンは学者たちに助言を受けて交渉を行った MONDADORI PORTFOLIO/GETTY IMAGES

実は、講和条約の内容に大きな影響を与えたウィルソンの「14カ条の平和原則」を生み出したのもインクワイリーの学者たちだ。この原則は第一次大戦後のアメリカ外交の枠組みとなり、世界中の人々に希望を与え、「民族自決」の旗を掲げ、西欧列強の帝国主義に弔鐘を鳴らした。

講和会議後、インクワイリーは人知れず2つの関連した組織に変容した。その1つは東海岸の国際派エリートたちのグループ。ニューヨークのマンハッタンを拠点とした彼らは、第二次大戦に先立つ何年か、イギリスの諜報機関とアメリカの大統領の連絡係を務めた。そこから1942年にアメリカ初の連邦情報機関が生まれる。それがCIAの前身組織、OSS(戦略事務局)だ。

右派と左派が綱引きを展開

インクワイリーから生まれたもう1つのグループは、1921年に設立されたシンクタンクである外交問題評議会の創設メンバーだ。彼らもまた、マンハッタンに拠点を置いた。

第二次大戦後にアメリカがようやく世界の最強の国の役割を引き受けると、シンクタンクが各地に続々と設立された。それらの機関に期待されたのは、中立的な立場で高度な専門知識を提供することだ。

1948年に設立されたランド研究所は、政府から独立した立場の学者たちが超党派的なアプローチで政府の政策に関連した知識を提供する機関であり、宇宙開発や情報技術の専門家もいて、米軍は継続的に彼らの研究開発の成果を利用できた。終戦から間もない1946年、ランド研究所の前身プロジェクトランドは初の報告書「実験周回宇宙船の予備設計」をリリースした。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州新車販売、7月は昨年4月以来の大幅増 BYDが

ワールド

アングル:英国で広がる「国旗掲揚運動」、反移民気運

ワールド

アングル:超長期金利が上昇一服、財務省の発行減額巡

ワールド

ロシアの攻撃、キーウのEU代表部やブリティッシュ・
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 6
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 7
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story