コラム

アメリカのシンクタンクが世界を動かす力を持つ理由

2019年11月14日(木)17時35分

magSR191114_ThinkTanks5.jpg

ランド研究所は第2次大戦後に米軍の戦略研究のために発足。現在は幅広い分野で政策立案に貢献している TED SOQUI-CORBIS/GETTY IMAGES

しかしアメリカの極右は常に、シンクタンクをメディアと並ぶ「左寄り」と見なして反発してきた。それらのメディアやシンクタンクを、元アラバマ州知事で1968年の大統領選に出馬したジョージ・ウォレスは「頭でっかち」と呼んだ(実際アメリカでは、知性派エリートは「庶民」の敵と見なされてきた)。彼ら右派はナショナリズムを隠そうとせず、個人の自由を尊重する「リバタリアン」でありながら権威主義的で、自由市場、小さな政府、社会・経済の規制緩和を主張する。

1980年にロナルド・レーガンが大統領に選出されるまで、保守運動において裕福な個人がワシントンの支配層や全米のメディア、それに彼らの言うシンクタンクの「左寄り、政府寄りの偏見」に対抗した。これが現在アメリカの民主主義を脅かしている政治的分裂の先触れとなり、「党派的なシンクタンク」というシンクタンクの「第2の波」を生んだ。

例えばヘリテージ財団(1973年)は、イデオロギーといい使命といい明らかに保守派寄りだ。リベラル派と中道派はこうしたシンクタンクの政治化に対抗。1990年代にはニューアメリカ財団(1999年)、さらにリベラル寄りのアメリカ進歩センター(2003年)などが設立された。

現在、全米のシンクタンクの数は1800を超え、そのうち400以上がワシントンにある。主義主張を問わず、シンクタンクはしばしばイデオロギー的に近い政権入りを狙う、あるいは政権への返り咲きを狙う個人のたまり場となる。シンクタンクは往々にして政府のために重要政策の知的・分析的枠組みを提供する。

magSR191112thinktank-chart2.png

11月19日号「世界を操る政策集団 シンクタンク大研究」特集21ページより

ヘリテージ財団は1980年代、レーガン政権の8年に及ぶ経済的規制緩和と対ソ連強硬政策にイデオロギー的根拠と政策の大枠を提供した。アメリカ進歩センターは2008年のオバマ政権発足に重要な役割を果たし、タイム誌から「1981年のレーガン政権の政権移行チームに協力したヘリテージ財団以来の絶大な影響力を持つ」と評された。

だがその結果、情報の政治化が進み、政策への影響力争いは激化。影響が深刻さを増している。


政策への影響力争いが激しさを増し、政治の危険な両極化が進むなか、シンクタンクの暗部も明らかになってくる。11月19日号「シンクタンク大研究」特集では、それらの懸念点も検証し、さらにはアメリカのシンクタンクの人脈と金脈も明らかにした。本記事は特集の1記事を一部抜粋したもの。

※本記事の続きはこちら:シンクタンクにも左派、保守派、独立派があり、その影響力は絶大

<2019年11月19日号「世界を操る政策集団 シンクタンク大研究」特集より>

【関連記事】霞が関が支配する日本の行政、シンクタンクに存在意義はない?

20191119issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月19日号(11月12日発売)は「世界を操る政策集団 シンクタンク大研究」特集。政治・経済を動かすブレーンか、「頭でっかちのお飾り」か。シンクタンクの機能と実力を徹底検証し、米主要シンクタンクの人脈・金脈を明かす。地域別・分野別のシンクタンク・ランキングも。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で対円・スイスフランで下落
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 9
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story