コラム

シンクタンクにも左派、保守派、独立派があり、その影響力は絶大

2019年11月15日(金)17時35分

ブッシュは情報当局に批判的 KEVIN LAMARQUE-REUTERS

<米政界でブレーンとして活動する政策集団のシンクタンク。1910年にアメリカで最初のシンクタンクが設立され、米ソ冷戦の中で特定のイデオロギーを擁護するシンクタンクが登場した。本誌「シンクタンク大研究」特集より>

※本記事の前半はこちら:アメリカのシンクタンクが世界を動かす力を持つ理由

20191119issue_cover200.jpg1976年にフォード政権下で(正式にはシンクタンクではなく、表向きは外部の専門家で構成される諮問機関だが)大統領対外情報諮問会議(PFIAB)が、政府情報機関の活動の調整・情報共有化を図る政府組織であるインテリジェンス・コミュニティーを、ソ連の戦略兵器製造をめぐる評価が甘過ぎると批判。「独立派」のレビューが求められ、ドナルド・ラムズフェルドやポール・ウォルフォウィッツら、後に「チームB」と呼ばれる冷戦期の保守派が評価を実施した。

当然、結論は前提どおり──すなわち、ソ連の戦略的脅威は劇的に拡大し、米ソの「デタント(緊張緩和)」というアメリカの対ソ外交の前提を損なっているので防衛を強化すべきだ、というものだった。この戦略的評価と政策提言が4年後にレーガン政権の土台となり、チームBのメンバーが自らの見解を実現すべく政権入りする。

だが「レビュー」と外部の「識者」による評価は、実際はタカ派的政策を擁護するもので、特定のイデオロギーにくみしないシンクタンクによる超党派の研究・分析ではなかった。そもそも、そうしたシンクタンクに対抗するために、このシンクタンクの第2の波が生まれたのだ。

magSR191114_ThinkTanks6.jpg

ヘリテージ財団で挨拶するレーガン DIANA WALKER-THE LIFE IMAGES COLLECTION/GETTY IMAGES

筆者自身、もう1つの歴史的に重要な事例を身をもって体験した。特定のイデオロギーを擁護するという、現在(特に)右寄りのシンクタンクが担っている役割は、政策をゆがめ、アメリカの新たな戦争を正当化し、ひいては実際に戦争につながった、という体験だ。

2001年1月に発足したジョージ・W・ブッシュ(子)政権は当初からイラクのフセイン政権打倒を明言。同年の9.11同時多発テロを受けて即座に「テロとのグローバル戦争」に踏み切り、アメリカの世論形成に乗り出した。アルカイダなどイスラム過激派テロ組織の脅威が欧米の文明の存続に関わることを認識させ、フセイン政権をアルカイダおよびイスラム過激派によるテロと結び付け、イラクが「大量破壊兵器」(恐らく核兵器という意味)を開発中か保有していると認めさせて、アメリカのイラク侵攻とフセイン政権打倒を正当化したのである。

ブッシュ政権のスタッフには25年前のチームB出身者の多くが名を連ねていた。ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官、ディック・チェイニー副大統領(チームB時代はフォード政権の大統領首席補佐官)などだ。問題は、インテリジェンス・コミュニティーの評価が政権の前提および立場とはことごとく食い違っていることだった。アルカイダとフセイン政権は無関係で、アルカイダは対処すべき現実の問題ではあるが、欧米の存続を脅かすものではなかった。

さらに、フセインが大量破壊兵器の入手や開発を企てていたかについてもインテリジェンス・コミュニティーの見解は割れており、イラクには核兵器を所有している可能性も、その能力もないと考えられていた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から

ワールド

米政府効率化省「もう存在せず」と政権当局者、任期8

ビジネス

JPモルガンなど顧客データ流出の恐れ、IT企業サイ

ワールド

米地裁、政権による都市や郡への数億ドルの補助金停止
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story