コラム

ドイツ大統領の訪問を拒絶したウクライナの恨み

2022年04月16日(土)19時20分

ウクライナに拒絶されたドイツのシュタインマイアー大統領(左) REUTERS/Ints Kalnins

<ウクライナにとってシュタインマイアー大統領は、かつてプーチンを信用してパイプライン計画などを推進したドイツの壊滅的親ロ政策の象徴だ>

4月12日、ドイツのシュタインマイアー大統領がポーランド及びバルト三国の大統領とともにウクライナの首都キーウを訪問しようとしたところ、シュタインマイアーのみウクライナ側に訪問を拒否されていたことが報じられ、ドイツ国内外で話題となっている。

4月上旬にキーウ方面のロシア軍が撤退したのち、ボリス・ジョンソン英首相などの欧州首脳が相次いでキーウを訪問しており、ドイツ大統領に対する訪問拒否は極めて異例だ。いったいどのような背景があるのか。

ドイツの「親ロシア」政策の旗振り役


シュタインマイアーは2017年に大統領に就任した。ドイツの大統領は政治的な実権をほとんど持たず、一種の名誉職なので、彼の政治キャリアでは、SPD(ドイツ社会民主党)の指導者の一人としてメルケル政権で2005年〜2009年までと2013年〜2017年までの計8年にわたりドイツの外務大臣を務めていたことの方が重要だろう。また2007年〜2009年までは副首相も務めている。

シュタインマイアーが閣僚として活動していたメルケル政権に対する評価は、ドイツ国内外で急激に悪化している。ロシアとのガスパイプライン、ノルドストリーム2の建設を推進していたからだ。緊密な経済関係がロシアとの平和構築につながることを信じてエネルギー供給の依存を進めたメルケル政権は、ロシアを肥え太らせただけに終わり、今もドイツはロシアに断固とした態度を取れずにいる。親ロ政策のくびきだ。

そしてシュタインマイアーは外相としてその旗振り役の一人であり、ロシアとの「デタント(緊張緩和)」を外交方針とし、2014年のドンバス戦争でもロシアに対して強硬な立場を取らなかった。開戦後、SNSでラヴロフ外相と抱き合っているシュタインマイアーの過去の写真が発掘され、「炎上」した。こうした事実は、当然ウクライナ側も認識しており、シュタインマイアーはキーウ市民を含めウクライナ国民から強く反感を買っている政治家の一人といえよう。

ゼレンスキー大統領の意向は?

シュタインマイアー大統領の訪問拒否について、ゼレンスキー大統領の意向はどれほど反映されているのだろうか。3月のドイツ連邦議会での演説で、ゼレンスキーはドイツに対して厳しい批判を行った。一方でウクライナはドイツ議会が派遣した3人の議員を歓迎し、またショルツ首相のキーウ訪問を要請してもいる。ウクライナは武器輸出に消極的でロシアのガスを諦めきれないドイツに対して苛立ちを覚えながらも、必ずしも冷淡な態度ばかり取ってきたわけではないことも伺える。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのミサイル、イランの拠点直撃 空港で爆発

ビジネス

日経平均は1100円超安で全面安、東京エレクが約2

ワールド

イスラエルのイラン報復、的を絞った対応望む=イタリ

ビジネス

米ゴールドマン、24年と25年の北海ブレント価格予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story