最新記事

ドイツ妄信の罠

「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の勘違い

TRUTH, NOT APOLOGIES

2020年10月27日(火)20時33分
ジェニファー・リンド(米ダートマス大学准教授)

CDU党本部にあるアデナウアー元首相の写真の前を通るメルケル首相(09年) REUTERS/Wolfgang Rattay

<日本がドイツ・モデルを見習って謝罪しても、東アジアの近隣諸国との関係改善にはつながらない。本誌「ドイツ妄信の罠」特集より>

日本と近隣諸国との歴史問題の原因は、日本政府が戦時暴力を謝罪しなかったことにあるという意見をよく聞く。しばしば日本と比較されるドイツは戦後に謝罪し、被害者への補償を行い、歴史教育や追悼行事を通じて戦争の記憶を忘れない努力をしている。日本もドイツの例に倣えば、いずれ近隣諸国と和解できる、というのがこの主張の骨子だ。
20201103issue_cover200.jpg
こうした既存の「常識」には問題がある。ドイツ・モデルから間違った教訓を得ていることだ。他の和解の事例と同様、ドイツの経験が示唆しているのは謝罪ではなく、真実を語ることの重要性なのだ。

アジアの人々は、戦時中の日本による暴力や収奪、あるいは植民地支配の屈辱、いわゆる「慰安婦」や「徴用工」の苦しみを記憶している。南京事件やその他のアジアの都市や村での蛮行も忘れていない。

かつての敵国同士は、このようなトラウマをどうやって乗り越え、良好な関係を回復するのか。歴史的に見て、国家は過去の戦争を振り返る際に自国の苦難を強調し、兵士や指導者を英雄とたたえてきた。だが戦後の西ドイツ(および統一後のドイツ)は、戦時中の他国への暴力を償うという新しいモデルを発明した。

第2次大戦後の西ドイツは、世界がかつて見たことのないレベルで過去と向き合った。指導者たちは謝罪を表明し、教科書にドイツの悪行と近隣諸国の苦難を記述し、都市には犠牲者を追悼する記念碑を建てた。

今日のドイツは、かつての被害国と生産的で良好な関係を築き、自由主義陣営の中で高く評価される主要国の1つになっている。そのため日本もドイツの贖罪を見習うべきだという「常識」が出来上がった。

謝罪は国内の反発を招く

ドイツの経験から学ぶべきことは多いが、この主張にはいくつかの問題がある。まず、ヨーロッパの和解の時期を誤解している。西ドイツは過去を謝罪する前に、英仏と和解してNATOに加盟した。

1950年代の西ドイツは、(特にソ連による)自国の苦難を強調していた。保守派のコンラート・アデナウアー首相(当時、以下同)は51年にイスラエルへの補償に同意したが、発表した声明は不都合な事実に向き合うことを巧妙に回避したものだった。有名な謝罪や追悼碑・博物館の設置は、60年代に左派が政権を取った後の出来事だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦期待で「有事のドル

ワールド

イラン大統領、米国民宛て書簡「一般市民に敵意なし」

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡巡り欧州に圧力 ウに武器供

ワールド

ICE予算巡り議会指導部と協力、議事妨害回避で=ト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 8
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中