コラム

胡錦濤は本当に改心したのか?

2011年01月21日(金)15時34分

passport110111.jpg

世界が苦笑い ホワイトハウスの会見でアメリカ人記者から人権問題について突っ込まれた胡錦濤(12月19日)
Jim Young-Reuters

cleardot.gif

  先日のバラク・オバマ米大統領と中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の地味な(もっと言えばさえない)共同記者会見で最も興味深かったのは、ブルームバーグの記者が胡に人権に関する別の記者からの質問に答えるよう強く求めた瞬間だ。

 胡は通訳を非難し、質問が聞こえなかったと主張した(記者団からはあからさまな笑いが漏れた)。そして胡は「......私たちは常に人権を尊重している(そして改善に取り組んでいる)。中国は途上国として他に類のない状況に直面している......われわれは対話を望んでいる...」と、人権問題に関する中国のお決まりの回答を披露した。

 胡は「中国は人権の普遍性を認め尊重している」とも語った。ニューヨーク・タイムズのマイケル・ワインズ記者はこの発言を、「国内の反体制派に2年にわたって弾圧し、ノーベル平和賞受賞者を投獄し続ける政府にとって明らかな変化だ」と受け止めた。

 ワインズはまた「中国は国連の国際人権規約に署名しているが、水曜日(編集部注:記者会見のあった19日のこと)まで、民主主義や人権といった信条を『普遍的な価値』と認識することは、中国の政治議論の中でほとんどタブーだった」と続けた。

 フォーブス誌のガディー・エプステイン特派員は09年のワシントン・ポストの記事に触れながら、中国が国連に提出した報告書について次のように指摘している。


「中国は人権の普遍性を認識している」とその文書には書かれている。だが「政治体制や発展のスピード、歴史的・文化的な背景の違いから、国によって人権問題について見解が異なるのは当然だ」とも主張している。

 

 これは胡が語った内容とほぼ同じだ。世界の注目が集まる記者会見で国家主席自身がそう話すのは変化だと言えるが、中国が人権と民主主義について心から新しい「約束」をしたと考えるべきではない。経済的な成功がいよいよ本物になっても、中国共産党に自らの政治的権力を守るための締め付けを放棄する意思はまったくない。政治犯を投獄し、街頭で人々を殴り、メディアを検閲し、中国人民が自らの意思で将来を決めることを許さない──彼らがこんなことを止めるのは、いつの日だろうか。

──ブレイク・ハウンシェル

[米国東部時間2011年01月20日(木)2時56分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 20/01/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車販売、6月は前年比+18.6% 一部EV

ワールド

ガザ停戦は可能、合意には時間かかる=イスラエル高官

ワールド

アングル:中国人民銀、関税懸念のなか通貨安定に注力

ワールド

ジェーン・ストリート、インド規制当局に異議申し立て
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story