コラム

援助機関まで襲うハイチの絶望

2010年10月28日(木)16時15分

 ハイチの都市サンマルクの住民たちは、援助団体「国境なき医師団」によるコレラ診療所の建設に反対して街頭デモを行った。300人ほどの学生を含む群集が、診療所ができれば周辺に感染が広がると抗議し、石を投げた。国連によれば、最近のコレラ流行による死者は280人以上に上っている。

 普通なら、国境なき医師団ぐらい高名な援助団体がやることに間違いはないと思うだろう。まして診療所からコレラ感染を広げるなんてことはありえないと。

 首都ポルトープランスにいるアルジャジーラの特派員は、住民の怒りは主としてコレラに関する公教育の欠如からきているという。だが、他の問題もあると私は思う。ハイチ人が診療所の建設を嫌うのは、その建物自体に対する不信感だけでなく、生活環境のひどさのせいでもあると思う。

 ハイチをマグニチュード7の大地震が襲い、25万人が犠牲になったのは9カ月前。ポルトープランスは瓦礫の山と化し、インフラや経済開発は何年も逆戻りしてしまった。

■国連もNGOも支援者と見えていない

 地震直後には、世界100カ国以上が150億ドルの復興支援を約束した。だがこれまでのところ、ハイチの状態は地震直後から大して変わっていない。家を失い仮設テントで暮らす人は今も130万人に上り、そこでは飢えや強姦、栄養失調が蔓延し、とうとうコレラの巣になってしまった。アメリカも11億5000万ドルの支援を約束したが、実際ハイチに届いたのは3億ドルだけだ。

 10月に入ってハイチ住民は、ポルトープランスにある国連の軍事施設の入り口を封鎖し、「占領者を倒せ」という旗を振った。ミルバレの町では、近郊に展開している国連軍のネパール部隊が川に汚物を捨てている抗議するデモが起こった。

 復興のペースが上がらない限り、ハイチ人は国連軍や国際機関が救援者であり味方だとさえ思わないだろう。支援の遅れに対する怒りのあまり、今後はハイチ人が自らの生死に関わる医療施設まで襲撃する事態にもなりかねない。

──マックス・ストラッサー
[米国東部時間2010年10月27日(火)17時10分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 28/10/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア、半導体密輸対策に役立つ位置確認技術構

ビジネス

26年の最大のテールリスクはAI巡るサプライズ、ヘ

ワールド

インドネシアとの貿易協定、崩壊の危機と米高官 「約

ビジネス

米エクソン、30年までに250億ドル増益目標 50
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story