コラム

親日だけじゃないジャック・シラク──フランス人が愛した最後の大統領

2019年10月01日(火)10時00分

スタミナと人間味にあふれた最後の「大きな政治家」だった Philippe Wojazer PW-REUTERS

フランスで12年間大統領を務めたジャック・シラクが86歳で亡くなりました。シラクというと日本ではよく親日家の側面が取り上げられますが、政治家としての彼のことはあまり知られていません。フランス人にとっては、忘れがたい大統領です。

ジャック・シラクは、1932年にパリ5区のブルジョアな家庭で生まれます。身長192センチの若きシラクは根性のある学生でした。パリのエリート大学をあっと言う間に卒業すると、アルジェリア戦争に従軍。彼には戦争に行かない選択肢もあったのですが、そうしませんでした。愛国心というよりは、冒険好きな性格のためだったようです。

帰国後に政治家として修業します。当時のフランスの政治はシャルル・ド・ゴール大統領の後継争いで混戦模様でした。有望な若手が大勢いるなかで、シラクは最も優秀とはいえませんが、政治が大好きでスタミナは人一倍ありました。当時のジョルジュ・ポンピドゥー大統領に可愛がられ、1972年に39歳で農林水産大臣に抜擢されます。庶民的でさっぱりした人柄で国民に人気でしたし、若くてイケメンで、今の小泉進次郎を連想させるフレッシュな人選でした。

政治家として自分を追い込み、際どい挑戦を恐れなかった

1974年には41歳で首相に選ばれ、2年後に政策路線の違いから当時のジスカール・デスタン大統領に前代未聞の反抗をしてドカンと辞任(当時首相)、新党を立ち上げます。反乱者シラクの誕生です。45歳のときにパリ市長になり、約20年にわたってこの大都市を統治します。1980年ごろには、フランス政界のスター的な存在になっていました。

しかしその後2度の大統領選で完敗すると、負け犬のイメージになり、笑い者にもされました。不遇の10年間でした。

誰もが彼のキャリアは終わったと思った頃、彼は不死鳥のように甦りました。復活のきっかけは、選挙で治安の悪化やエコロジーなど洞察に富む的確な争点を打ち出したことです。その結果、1995年の大統領選で62歳で初めて当選します。失われた時間を戻すために。

シラク大統領は、天敵だったフランソワ・ミッテラン(元大統領)に負けない強い決断を次々と下しました。第二次大戦中のフランスの悪名高きヴィシー政権のユダヤ人虐殺の責任を公に認め、国として謝罪します。ヒューマニズムかと思ったら、直後には南太平洋の核実験を再開して国際社会から多くの批判を浴びます。

シラクはイメージアップにはさほど関心がなく、政治家として常に自分を追い込み、際どい挑戦を恐れませんでした。1990年代後半、兵役の義務を廃止すると、アラブ文明が好きな彼はアメリカの中東外交にも極めて懐疑的な姿勢を見せ、9.11後のイラク戦争ではアメリカを敵に回すことも恐れず、フランス軍が「有志連合」に参加するのに反対します。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済、26年第1四半期までに3─4%成長に回復へ

ビジネス

米民間企業、10月は週1.1万人超の雇用削減=AD

ワールド

米軍、南米に最新鋭空母を配備 ベネズエラとの緊張高

ワールド

トルコ軍用輸送機、ジョージアで墜落 乗員約20人の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story