コラム

2024年五輪開催をテコに生まれ変わるパリがすごい!

2019年08月14日(水)13時00分
2024年五輪開催をテコに生まれ変わるパリがすごい!

ペルーの首都リマで開催されたIOC総会で、2024年夏季五輪をパリに呼び込んだペクレス Mariana Bazo-REUTERS

<パリ首都圏を「東京の首都圏」の快適さも参考に作り替えようという女性指導者が語る夢とロマンに溢れた大規模再開発計画>


フランス政界における保守派の新リーダーの一人で、フランスのGDPの30%を占めるイル=ド=フランス地域圏(パリ首都圏)議会の議長を務めるヴァレリー・ペクレス氏が来日しました。2024年パリ五輪を主催する立場として東京五輪の準備状況を視察し、世界一の観光都市パリに今よりさらに多くの観光客や企業を呼び込むためのPRをするためです。パリ市と郊外を合わせたパリ首都圏を、外国の若者向けにももっと魅力的な街にするために奔走するペクレス氏に、筆者が東京でインタビューしました。

──若い観光客をパリに誘致しようとしていますが、パリ市内に泊まるのは高くてとても無理。だとすれば、昔は治安が悪かったパリ郊外に泊まることになるのでしょうか。

パリ首都圏の次のチャレンジはまさに、若者にも手が届く観光パッケージを提供することです。

パリで本格的な夏休みを過ごすことも可能です。外国の方にはあまり知られていないのですが、パリ地方には「base de loisir(レジャー拠点)」として人工湖を設置した観光地が12カ所あります。 パリの近くに大自然を作ったのです。将来は、限られた予算で泊まりつつ、電車でパリまで遊びに行くという新しい観光方法も考えられます。

──パリの郊外はあまり魅力的ではないのですが。

この数年、郊外を再生するプロジェクトを続けてきました。ヒントになったのは、都市も郊外も1つの村のように美しく整備され、どこへ行っても治安がいい大東京圏の「村意識」です。パリも東京に負けない鉄道網を作るべきですし、パリも郊外も生活水準を向上させ、治安もいい空間として生まれ変わらせます。それが大規模再開発計画「グラン・パリ」プロジェクトです。

グラン・パリのキーワードは「人間」「都市」「自然」。人間が簡単につながり、現代建築の力を借りた都市の刺激も、豊かな緑もある住みやすい場所です。

──私は6月にパリに行きましたが、「3K」でしたよ。街は汚くて、公共交通機関の中は臭くて、道は車がまともに走れないほどのカオスでした。便利なのは自転車や歩きのときだけです。

建設ラッシュでパリが混沌としていることは認めます(たとえば、現パリ市長のアンヌ・ヒダルゴ氏はセーヌ川沿いの旧高速道路を緑道に変えつつあり、そのために市内は大渋滞になっている)。色々とご迷惑をおかけします。

臭いというのは、多くのバスはエアコンがなく、夏は汗の匂いが強烈なせいです。緑の党は10年前に「エアコンは環境崩壊につながる」として、(エアコンを付けずに窓を開ける方法を)試してみましたが、温暖化の時代に無理がありました。でも、パリの新型バスは電気エンジンに最新エアコン付き(トヨタ車が多い)。2025年までにグラン・パリのバスは100%新世代になります。水素エンジンバスの実験も続いており、5年後のパリはあのエコ大国ドイツを上回る最先端のグリーンタウンになるはずです。

──2020年までに、自転車専用道路を1000キロに延ばすという目標がありましたが。

パリには現在65万人のドライバーがいて、200万人に増やす目標があります。そのためには自転車専用レーンは少なすぎるし、駐輪場も足りないのです。シニア世代向けには乗り捨てできる電気自転車のレンタルサービスも充実させなければなりません。私は郊外に住んでいるので、週末は自転車のみです。でもパリ市内は自転車ユーザーにもっと優しい環境を提供しなければなりません。

──パリの一つの魅力は多民族都市であることです。旧植民地からの移民が作ったエスニックタウンは子供の時から大好きです。13区の東南アジア街、12区の西アフリカ街、18区の北アフリカ街、4区のユダヤ街など。

2区は日本街、15区は韓国街とイラン街、まだまだありますよ。日本人観光客が知らない国の料理をパリで食べることもできるし、フランス料理やイタリア料理の店を出して成功している日本人シェフも大勢います。彼らのレストランはもっとPRしたいですね。

──日本人の海外留学は減りましたが、フランスはもっと積極的に夏の国際交流をPRし、安いサマースクール(夏の短期留学)の機会を提供できるはずです。

はい。パリ市内に数多くある大学の寮は夏はガラガラです。宿泊施設として安く使えるはずです。アメリカに比べて良心的な価格のパッケージが提供できます。夏のパリは住民もいなくなるので、海外の学生のような新しいエネルギーを呼び込んで街を活気づけなければなりません。これも大事なテーマですので、ぜひ挑戦させてください。


どんな質問にもフランクに答えてくれるペクレス氏には誠意が感じられました。フランスは、いまだに女性の大統領も総理大臣も生み出したことがないのですが(エディット・クレソン氏は短すぎて例外)、左派で最もトップに近いのはパリ市長のヒダルゴ氏、右派ではペクレス氏です。パリはまさに、頂点に至る理想的な踏み台なのかもしれません。

2022年の大統領選は早過ぎるとしても、2024年パリ五輪の成功を経た後の2027年は2人にとって大きなチャンスです。何より、彼女たちが語るパリの構造改革は魅力的です。東京都民も東京五輪後にもそうしたレガシーを期待したいところでしょうが、残念ながら日本では、それほど魅力的な都市計画話はまだ聞いたことがありません。

なぜでしょうか。高齢化社会の日本の政治家たちは自身に投票をいれてくれるシニア層を優先し、フランスの政治家たちは国をよくしてくれる次世代のパワーを信じるという違いでしょうか。ペクレス氏は、高齢者やお金持ちだけでなく若者たちと外国人にとって住みやすい環境を考えてくれている印象です。東京はパリに負けない魅力的な街なのに残念です。斬新なザハ・ハディッドの新国立競技場のデザインが選ばれなかった事件が象徴的です。

Girls and Boys be ambitious ! 東京人よ、夢をもて!


プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、第3四半期に貸出基準を予想外に緩和=

ビジネス

UBS、第3四半期は16%減益 不振の投資銀行部門

ワールド

中国、米エンティティー・リストを注視へ 「自国の権

ワールド

インドネシア、23日に閣僚名簿発表へ 財務相は留任

MAGAZINE

特集:AI vs. 癌

2019-10・22号(10/16発売)

ゲノム解析と人工知能で最適な治療薬を発見する究極の癌治療が人類を「最後の敵」から救う日

※次号は10/23(水)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    水深3200メートル、クジラの死骸に群がる深海魚、撮影される

  • 2

    水深450メートル、メカジキに群がるサメ、そのサメを食べる大魚

  • 3

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 4

    「白馬にまたがる金正恩」写真に潜む目的と予告

  • 5

    ヘンリー王子との結婚「考えが甘かった」と重圧を語…

  • 6

    ウィリアム王子とキャサリン妃がパキスタン訪問、「…

  • 7

    未成年性的虐待の被告の大富豪が拘置所で怪死、米メ…

  • 8

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

  • 9

    「見せしめ判決」でカタルーニャの怒り再燃、バルセ…

  • 10

    中国の探査機が月に持ち込んだ植物の種、ハエの卵...…

  • 1

    韓国は、日本の対韓感情が大きく悪化したことをわかっていない

  • 2

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 3

    ヘイトに立ち向かったK-POPアイドル、ソルリ追悼写真集

  • 4

    中国の探査機が月に持ち込んだ植物の種、ハエの卵...…

  • 5

    韓国・文在寅の賃上げ政策が招いたこと──映画館からス…

  • 6

    交尾をめぐって噛みつき合う、暴力まみれのサメの日常

  • 7

    韓国訪問中に消えた9人のベトナム外交団員 公安当局…

  • 8

    未成年性的虐待の被告の大富豪が拘置所で怪死、米メ…

  • 9

    性的人身売買から救われた少女が自殺 犯人の男と家…

  • 10

    日本と韓国の危険なゲームが世界経済を殺す

  • 1

    韓国で長引く日本製品不買運動、韓国企業への影響が徐々に明らかに

  • 2

    イランで逮捕された「ゾンビ女」の素顔

  • 3

    写真撮影で「怪しいOKサイン」を出したテーマパークのスタッフが解雇

  • 4

    「OK」のサインは白人至上主義のシンボルになったの…

  • 5

    韓国は、日本の対韓感情が大きく悪化したことをわか…

  • 6

    「独島が韓国の領土であるとの証拠は何もない」韓国…

  • 7

    米韓関係の険悪化も日本のせい⁉ 文在寅がまた不安な…

  • 8

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 9

    繁殖を止めるために遺伝子組み換えされた蚊、自然界…

  • 10

    全米最悪93人の連続殺人犯が「驚異的」な記憶力で描…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!