コラム

30発の核爆発を撮影した日系カメラマン

2010年12月07日(火)16時58分

 9月から娘が中学に通い始めた。けど、うちの学区にはスクールバスがないので、まだ登下校の送り迎えはしている。

 カリフォルニアでは子供は12歳になるまで子供を独りにしちゃいけない。独りで留守番させても、警察に通報されたら親が責任を問われる。だから鍵っ子なんてもってのほかだ。

 理由はもちろん子供の誘拐を防ぐためだが、日本でも子供はいっぱい襲われているのに、いまだに小さな子がランドセルしょって独りで歩いているのを見かける。アメリカ生活に慣れた目から見るとハラハラする。

 ただ、中学生になれば、子供だけでも2人以上で一緒なら、大人がいなくても黙認される。そこで、近所の同学年の子供と「通学バディ」を組ませた。うちの娘のバディはキーラちゃんという女の子になった。彼女は日系4世だ。

 こないだの感謝祭で、キーラちゃんの家に泊りに来た彼女のおじいちゃんに会った。

 「私は日系人でただ1人、アメリカ軍の核実験の写真班だったんですよ」

 キーラちゃんの祖父、82歳のジョージ・アキラ・ヨシタケさんは、興味深い人生を語ってくれた。

ジョージ・アキラ・ヨシタケさん

55年~63年までアメリカの核実験を撮影し続けたジョージ・ヨシタケさん

 1929年、ジョージさんはロサンジェルスに生まれた。父は九州からの移民。母は写真だけのお見合いで日本から嫁いできたピクチャー・ブライドだ。

 1941年、ジョージさんが12歳の時、日本軍が真珠湾を攻撃し、日系人は敵性市民とされて、すべて強制収容所に入れられた。「手に持てる荷物以外の財産は全部没収されました。最初は馬小屋に押し込められました。ベッドもなく、藁の上に寝ました」

 ヨシタケ一家はアーカンソーのローウェアという土地の収容所に移された。何もない荒野に作られた粗末な建物に何家族もが一緒に暮らした。周囲は鉄条網で囲まれ、ジョージさんは思春期をその中だけで過ごした。

 「子供だから事態はよくわかってませんでしたね。夏休みのキャンプみたいに思ってましたよ」

 兄はアメリカへの忠誠を示すために米軍に志願し、日系人だけの442部隊としてヨーロッパでドイツ軍と戦った。442部隊は米軍で最も多くの勲章を得た最も勇敢な部隊だが、最も戦死者が多かった部隊でもある。ジョージさんの兄は無事に帰還したが。

 3年後、日系人は解放された。収容時に奪われた財産は返らなかったので、ゼロからやり直すしかなかった。

 戦後、ジョージさんは空軍に入り、写真班に配属された。彼が任命されたのは、核兵器の実験を映画やスチルで撮影する仕事だった。

 「なぜ、私のような日系人が選ばれたのかわかりません。私もその頃はあまりにも若くて、科学の最先端の現場で働けることが楽しいだけで、それが日本人を殺した兵器の実験だということを深くは考えませんでした」

 絶対の極秘任務だった。米ソが冷戦で核開発競争をしていた時代だったのだ。

 「核実験を撮影していることだけは妻に話すことを許されましたが、何を撮ったのか、何を見たのかは、一切、家族にさえ話せませんでした」

 撮影は極秘なので現像も極秘。そのため、軍は映画の都ハリウッドにそのための現像施設を建てた。「あのHollywoodというサインがある丘の上ですよ。周りの人はそこで核爆弾を作っていると噂してましたね」

 核実験場は主にネバダ州の砂漠だった。

 「最初に光が来る。次にものすごい熱波。その後、顔を引っぱたかれるような衝撃波がきて、最後にやっと爆風が来る。しかも2回来るんだ。最初は爆心地から外側に向かって。次に真空になった爆心地に周囲の空気がいっきに押し寄せる。それで何もかもなぎ倒される」

 さまざまな実験が行われた。一瞬で起こる核分裂をスローモーションで撮影するために超高速度カメラが使われた。飛行中のジェット機からロケットで原爆を射出して空中で爆発させる実験や、原爆の数百倍の破壊力を持つ水爆も開発された。

 「水爆は破壊力が大きいので、実験はアメリカ本土ではなく、太平洋で行われました。夜明け前でしたが、爆発した時、水平線の彼方に太陽が昇ったようになりました。空が見たこともない紫色に染まって、この世のものとは思えない美しさでした。恐ろしい美しさでした」

 爆発が及ぼす影響も調査された。建物に対する破壊力の調査、生物に対する殺傷力の調査。
「動物実験は悲惨でした。牛や馬や豚がモルモットにされたんです。爆発後に行くと、全身焼けただれた動物たちが苦しそうにうめいていて、本当にかわいそうでした」


アメリカの核実験フィルムは現在、すべて公開されている

 ジョージさんは55年から63年の間に約30発もの核爆発を撮影した。退役後も写真関係の仕事で軍と関わり続けた。冷戦は終わり、ジョージさんたちの写真も極秘ではなくなった。97年には彼らが撮った核実験のフッテージを集めたドキュメンタリー映画「アトミック・フィルムメイカーズ」が作られ、写真集も発売された。

 その写真を見ると異様なのは、キノコ雲の下、爆心地に非常に近い場所に立つ兵士や軍関係者たちの無防備な笑顔だ。

 「私たちはまだ、放射能の怖さを知らされていなかったから」ジョージさんは苦笑いする。

 「そこに写っている人たちや、私の仕事仲間の多くが、その後、ガンで死んでいきました」

 ジョージさんは幸運にも健康であり続けた。そして引退後、生まれて初めて父の故郷九州を訪れ、広島にも行った。

 「原爆で普通の日本の人たちがどんな目にあったのか、初めて知りました......」

 その後、ジョージさんは何度も広島を訪れている。

 「孫にはまだ、戦争のことも原爆のことも話せません」

プロフィール

町山智浩

カリフォルニア州バークレー在住。コラムニスト・映画評論家。1962年東京生まれ。主な著書に『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文芸春秋)など。TBSラジオ『キラ☆キラ』(毎週金曜午後3時)、TOKYO MXテレビ『松嶋×町山 未公開映画を観るテレビ』(毎週日曜午後11時)に出演中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米国のイラン介入に備え厳戒態勢=関係筋

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ドローン飛来で韓国に調査要求

ワールド

米ミネアポリスで数万人デモ、移民当局職員による女性

ワールド

米、来週にもベネズエラ制裁さらに解除=ベセント氏
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 8
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story