コラム

キテレツ発明品まつり「メイカー・フェア」は役に立たないのが楽しい!

2010年05月27日(木)15時17分

 銀色に輝く流線型のロケット。1930年代のパルプ雑誌の表紙にあったような宇宙船が目の前にそびえたっている。本当に金属製で、10メートルほどあって人間が乗れる大きさだ。

 その向こうでは蒸気機関で動くロボットが白い湯気を吹き上げて人力車を引いている。スティーム・パンク――内燃機関が発明される前に人類が夢見たハイテクだ。

 こちらではライブ演奏が始まった。楽器の周りで何人もが汗びっしょりで自転車をこいでいる。このアンプはすべて人力発電機を電源にしているのだ。

 真っ赤な消防自動車がある。ただしホースから吹き出すのは真っ赤な炎だ。英語で消防車をファイヤーエンジンと呼ぶからって本当にファイヤー出すなよ!

 そこら中、奇想天外というか奇妙奇天烈なメカやマシンだらけで超ワクワクする「メイカー・フェア」に行って来た。

 今年はカリフォルニア州サンマテオで5月22・23日に開かれた。DIY(Do It Yourself)の雑誌『メイク(Make)』が2006年に始めた愛読者の集いで、今では全米各地を巡回する人気イベントだ。

 『メイク』誌は日本でいえば『大人の科学』みたいな雑誌。子どもの頃、ハンダごてでラジオを作った人なら胸がキュンとする科学工作の例が沢山詰まっている。『大人の科学』みたいに値段が高くない代わりに立派なキットはついてない。一般の読者が家にあるものや廃物を利用して作った「発明品」を投稿し、それを掲載するシステムなのだ。

 たとえば、「ビデオデッキのタイマーを利用して猫に決まった時間に自動的にエサをあげるマシン」とか、「使わなくなったマウスを改造して、本当に床を走り回るネズミ・ロボットに」とか、「たった5ドルでできるクラッカーの箱を使ったギターアンプ」とか。とにかく製作費が安いのがうれしい。

 「ジャムの瓶で作るジェット・エンジン」や「自宅で作るバイオ・ディーゼル燃料」なんてのもある。研究所でしか扱えないと思っていたテクノロジーを台所で実験できるのが素晴らしい。

 メイカー・フェアは、そんな発明家や工作家たちの大集会で、ソック・モンキー(靴下で作った猿のぬいぐるみ)みたいな簡単な手芸キットから、自作R2-D2(『スター・ウォーズ』のロボット)なんて高度なものまで出品されている。

 『メイク』誌の編集長マーク・フラウエンフェルダーはテック系の有名ブログニュースサイト、ボイン・ボイン(Boing Boing)の創設メンバーの一人でもある。50年代のティキ(ハワイ風)なイラストレイターとしても知られ、ティキ趣味が高じて、今は南太平洋のラロトンガ島に妻子と共に暮らし、ネットを使って『メイク』を編集している。

 そのフラウンフェルダーが新しい本を出した。『手で作る/使い捨て社会に意味を求めて』というタイトルが示すように、今の世の中、何でも完成したものを買ってきて、動かなくなると買い換えるようになってしまった。昔は生活に必要なものはみんな自分で作っていたのに。

 といってもメイカー・フェアは一獲千金を目指す発明家たちの品評会なんかじゃない。

 たとえば高性能スピット・ガン。スピット・ガンとはストローの袋を唾で濡らして玉にしてストローで吹いて飛ばすイタズラだが、それの高精度版を作ろうというのだ。

 これに何の意味がある?
 
 飛ばない銀色のロケット、炎を吹く消防車、ジャム缶で作ったジェット・エンジン......どれにも意味はない。まったく商売にならないところが、いい。

 「『メイク』が楽しいのは、必要なものを作らないことなんだ」フラウンフェルダーはインタビューで言っている。必要性とか利益を考えると、楽しくなくなってしまう、と。

 今の世の中、効率ばかり考えると、逆に人はものを作らなくなる。わざわざ苦労して作ったり修理するよりも買ってきたほうが早いし安いから。人件費の安い国で作らせたほうがいいから......。

 フラウエンフェルダーはスティーヴン・コルベアの番組に出演したことがある。コルベアは保守で新自由主義の政治コメンテイターのフリをして彼らを皮肉るコメディアン。彼はフラウンフェルダーを「みんなが『メイク』を読んで何でも自作するようになったら消費が衰えますよ」と非難した。「ものは全部中国人に作らせればいいんです」

 だからダメになっちゃったんだよ!

プロフィール

町山智浩

カリフォルニア州バークレー在住。コラムニスト・映画評論家。1962年東京生まれ。主な著書に『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文芸春秋)など。TBSラジオ『キラ☆キラ』(毎週金曜午後3時)、TOKYO MXテレビ『松嶋×町山 未公開映画を観るテレビ』(毎週日曜午後11時)に出演中。

ニュース速報

ワールド

政府、中等症以下の自宅療養方針修正へ=高木・公明政

ワールド

トルコ山火事、「過去最悪」と大統領 発電所にも拡大

ワールド

米カリフォルニア州北部の山火事、延焼面積が急拡大 

ワールド

米家主団体、住宅立ち退き猶予措置の無効化求め提訴

MAGAZINE

特集:世界が尊敬する日本人100

2021年8月10日/2021年8月17日号(8/ 3発売)

免疫学者から歌舞伎役者、ユーチューバーまで世界が認めた日本の天才・異才・鬼才100人

人気ランキング

  • 1

    恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

  • 2

    大江千里がアメリカで感じた東京五輪の空虚さと違和感

  • 3

    誰にも聞こえない周波数で歌う世界一孤独な「52ヘルツのクジラ」の謎

  • 4

    気候変動の影響で地球の自転軸がずれた──最新研究

  • 5

    中国発の大ヒットSF小説『三体』に秘められた中国的…

  • 6

    太平洋上空の雲で史上最低気温、マイナス111度が観測…

  • 7

    こんなに動いていた! 10億年のプレートの移動が40秒…

  • 8

    自宅療養で人々を見殺しにすると決めた菅首相

  • 9

    「反マスク派」ポスターを剥がした女性、仕込まれて…

  • 10

    仮説上の天体『テイア』の遺物が地球深部に存在する…

  • 1

    東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

  • 2

    いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が成功しない訳

  • 3

    恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

  • 4

    1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だ…

  • 5

    ドラァグクイーンと子供のふれあいイベントが抗議殺…

  • 6

    福山雅治ほどの温厚な人を怒らせた「3つのスイッチ」とは

  • 7

    大江千里がアメリカで感じた東京五輪の空虚さと違和感

  • 8

    パリ五輪ロゴの出会い系アプリ激似説がネットで再燃

  • 9

    なぜ日本男子は世界で唯一、女性より幸福度が低くなる…

  • 10

    女子陸上短距離ジョイナーの「伝説と疑惑の世界記録…

  • 1

    東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

  • 2

    1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だった

  • 3

    加害と向き合えない小山田圭吾君へ──二度と君の音楽は聴きません。元いじめられっ子からの手紙

  • 4

    20万円で売られた14歳日本人少女のその後 ──「中世に…

  • 5

    「無駄に性的」罰金覚悟でビキニ拒否のノルウェー女…

  • 6

    「1日2個、カットしてスプーンで食べるだけ」 メンタル…

  • 7

    「競技用ショーツが短すぎて不適切」英パラ代表選手…

  • 8

    人間のオモチャにされたイルカ死ぬ──野生動物に触る…

  • 9

    韓国で、日本製バイクの販売が伸びている理由

  • 10

    いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中