コラム

韓国の大学がとった新型コロナ対策で起きた混乱

2020年03月19日(木)15時15分

韓国の兵士が大邱の塾を消毒する REUTERS/Kim Kyung-Hoon,

<韓国では3月初めから新学年が始まる。新型コロナウイルスの影響で新学期開始が延期となり「オンライン講義」に。突然のスタートに混乱もみられた......>

韓国の新年度は通常3月に始まる。小学校から大学まで日本よりも1ヵ月早い3月の初めから新学年での学期が始まる。だが、新型コロナウイルスが猛威を振るう今年は例年とは事情が異なっている。

韓国では1月末から患者数が急増の気配をみせはじめると教育部は小中学校の新学期の開始を2週間延期し3月16日から授業を開始することを決め、大学については、3月16日から授業を開始するが2週間は「オンライン講義」によって講義を行うという指針を定めた。

一見すると合理的で有効な政策に見えるが、この指針によって韓国の大学は大混乱に陥っている。大きな理由の一つはあまりにも唐突な決定であったため、ほとんどの大学で動画講義を準備する時間的、経済的余裕が全くといっていいほどなかったということである。動画講義を行うためにはまずインターネットインフラ、撮影のためのスタジオ施設が必要だ。最近ではスマートフォンでも動画を撮影しライブ中継することが可能な時代ではあるが、学生がその講義動画をみてきちんと内容を把握できるものにするためには、やはりある程度の照明設備やマイクなどの設備が必要だ。

大学によっては動画を撮影するためのスタジオを持っている大学もあるが、一日に数百も行われる講義を全てスタジオで撮影することは不可能だ。だが、予算には組み込まれていなかった大量の機材を準備する費用を短期間で捻出することが簡単ではないことは想像に難くない。

そもそも韓国では、サイバー大学と呼ばれる、もともとオンライン講義を中心に運営されている大学を除く一般的な大学の場合、オンライン講義の比重を全体の講義の20%以内にしなければならないという法規制が存在する。つまりこれまで一般の大学はオンライン講義に必要なインフラの構築に積極的になる理由がなかったのだ。

スマホにもユーチューブにも馴染みがない教授たちの困惑

準備不足は「インフラ」だけではない。それを運営する「人」も問題だ。大学の運営側がが中心となり動画講義を制作、発信するためには時間的にも人員的にも限界がある。そこで大学はガイドラインのみを作成し、各教授の裁量に任せるというケースが多いのだが、これまでインターネット放送に無縁だった年配の教授たちは四苦八苦している状態だ。

特に60代以上の引退を間近に控えている教授たちの中には助教や弟子たちの手助けが無ければ放送することが出来ないといった人たちも少なくないし、若い教員でも普段から動画配信をしている人でもなければ、多くが試行錯誤を繰り返しながらの放送で、なかなか思い通りの講義とはいかない。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ裁判所、最大野党党首巡る判断見送り 10月に

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ビジネス

エヌビディアが独禁法違反、中国当局が指摘 調査継続

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story