コラム

成功率98%、運んだ人工衛星の数々...7つのキーワードで知る「H2Aロケット」の歴史と、日本の宇宙開発事業への貢献

2025年07月02日(水)21時30分

50号機のペイロード(積荷)である温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW(GOSAT-GW)」は「いぶき」シリーズの3代目に当たる。初代「いぶき」は09年(15号機)、「いぶき2号」は18年(40号機)に打ち上げられた。

文科科学省研究開発局長の堀内義規氏は「H2Aは我々がやろうとしてきた宇宙政策を支え実現してきた、最も頼りになるロケットであった」と語る。


6.50号機に積まれた人工衛星「いぶきGW」とは何か

「いぶきGW」は、温室効果ガスを観測する「温室効果ガス観測センサ(TANSO)」と、降雪や海面水温などの水循環の状態から気候変動を観測する「高性能マイクロ波放射計(AMSR)」が同時搭載された衛星だ。

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温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」の愛称は「いぶきGW」に決定。(6月27日種子島宇宙センター 筆者撮影)

「いぶき」および「いぶき2号」の温室効果ガス観測ミッション、12年に打ち上げられた「しずく」の水循環変動観測ミッションを発展的に継続するもので、従来よりも高解像度かつ広範囲を観測できる。

打ち上げ2日前の6月27日には、衛星の愛称「いぶきGW」が発表された。JAXAのGOSAT-GWプロジェクトチームの小島寧プロジェクトマネージャは「1号機、2号機は呼吸、息遣いという意味で『いぶき』と名付けられた。今回は、G(Green gases:温室効果ガス)とW(Water cycle:水循環)の2つのミッションで新しい世界を作る、新しいエネルギーを呼び込むという意味も込めて名付けた」と思いを語った。

環境省気候変動観測研究戦略室長の岡野祥平氏は「温室効果ガスは日本では順調に削減できているが、世界では増えている。地球全体で減らしていくには削減の進捗管理が重要だ。いぶきGWは、国単位だけでなく地域や(発電所などの)企業単位で排出量を観測できる」と説明する。

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打ち上げ前の記者説明会で「いぶきGW」への思いと期待を語る。左からJAXA GOSAT-GWプロジェクトチームの小島寧プロジェクトマネージャ、環境省気候変動観測研究戦略室長の岡野祥平氏(6月27日種子島宇宙センター 筆者撮影)

JAXA地球観測研究センター研究領域主幹の可知美佐子氏は「AMSRは世界トップの性能を持ち、雲の中や雲を通して地面や海面の水の情報を測定できる。水循環変動の解明と、気象や水産、航行支援への情報提供といった実利用の2つの柱で観測を進めていきたい」と力を込めた。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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