コラム

成功率98%、運んだ人工衛星の数々...7つのキーワードで知る「H2Aロケット」の歴史と、日本の宇宙開発事業への貢献

2025年07月02日(水)21時30分

JAXA種子島宇宙センターや多数の打ち上げ見学者が訪れる長谷公園、宇宙ヶ丘公園などがある南種子町には、H2Aロケット50号機打ち上げに向けて感謝と成功祈願の幟(のぼり)が立ち並んだ。打ち上げ成功後は、日曜日にも関わらず早朝から成功を祝う幟がはためいた。

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早朝の種子島に打ち上げ成功を祝う幟(のぼり)がはためく(6月29日南種子町役場 筆者撮影)

種子島出身であるJAXA宇宙輸送技術部門鹿児島宇宙センター所長の砂坂義則氏は「地元にこれほどの人が見学に来てくれて本当に嬉しい。最初の設定日に打ち上がらないケースがあって、見学に来る人に申し訳ない。これからはできるだけ計画通り打ち上げるように頑張っていきたい」と見学者の気持ちに寄り添う。


JAXA宇宙輸送系基盤開発ユニット長の服部昭人氏は「インターネットで何でも見られる時代だが、ロケットの打ち上げは閃光や轟音、空気が震える感覚など来て体験しないと分からないものがある。だからこそ皆さんに来ていただいているのかなと思うし、ありがたい」と語る。

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射点への機体移動後、記者の取材を受けるJAXAのロケット関係者。左からJAXA宇宙輸送技術部門技術統括の藤田猛氏、同鹿児島宇宙センター所長の砂坂義則氏、同宇宙輸送系基盤開発ユニット長の服部昭人氏(6月28日種子島宇宙センター 筆者撮影)

◇ ◇ ◇

ロケットは機体の打ち上げに注目が集まりがちだが、宇宙に向かう目的は人工衛星を軌道上に届けることだ。

5.H2Aロケットが運んだ人工衛星にはどのようなものがある?

国産ロケットによる日本の人工衛星の打ち上げは、機密保持に優れ安全保障に貢献する。H2Aロケットは03年の5号機以降、約20機の情報収集衛星(IGS)を打ち上げた。また、国産の衛星測位システムを運用する準天頂衛星「みちびき」シリーズも、10年の18号機以降、5機が打ち上げられた。

私たちの生活に深く根ざしている衛星もH2Aロケットが地球周回軌道に運んだ。代表格は、天気予報でおなじみの気象観測「ひまわり」シリーズや、東日本大震災や能登半島地震で災害状況の把握に貢献した地球観測衛星「だいち」シリーズだ。

さらに地球軌道を飛び出した探査機も、H2Aロケットに宇宙まで運んでもらった。20年に小惑星リュウグウで採取した岩石試料入りカプセルを地球に送り届けた小惑星探査機「はやぶさ2」は、14年に26号機で打ち上げられた。24年1月に日本初、世界で5番目に月面軟着陸に成功した小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」は、23年の47号機に搭載された。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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