コラム

成功率98%、運んだ人工衛星の数々...7つのキーワードで知る「H2Aロケット」の歴史と、日本の宇宙開発事業への貢献

2025年07月02日(水)21時30分

3.H2Aロケットの「ここがすごい」②98%の成功率

H2Aロケットは50回中49回の打ち上げに成功した。同じ型式のロケットを50機制作、さらに成功率が98%というのは世界的に見ても非常に高レベルの成果だ。

唯一、打ち上げに失敗したのは03年11月の6号機。固体ロケットブースタの1本が分離しなかったためミッション成功の見込みがないと判断され、地上から指令破壊された。搭載していた情報収集衛星2機も失われ、ミッションは失敗した。


H2Aすべての開発や打ち上げに関わってきたJAXA宇宙輸送技術部門技術統括の藤田猛氏は「6号機の失敗は忘れたくても忘れられない。『破壊されました』という連絡に頭の中が真っ白になった」と回顧し、「直接の原因だけでなくロケット全体を見直し、非常に多くの改善点を見出したことが、7号機以降の連続成功につながった」と語った。

50号機の打ち上げ執行責任者である三菱重工業の鈴木啓司氏は、打ち上げ成功後に「無事に成功して、ちょっとまだ夢を見ているみたいな気持ち。成功率が98.0%になった。これは6号機を失敗してしまった後、50号機が最後と決めた以降すべて成功させてやっと到達できる数字で、達成することは悲願だった。97.9何%ではなくて、98.0%まで今日無事にたどり着けたことは大きな喜びだ」と声を震わせた。

newsweekjp_20250702091642.jpg

H2Aロケット50号機の打ち上げ執行責任者の重責を果たし思いの丈を話す三菱重工業の鈴木啓示氏(6月29日種子島宇宙センター 筆者撮影)

4.H2Aロケットの「ここがすごい」③種子島への経済波及効果は117億円

H2Aロケットは全長53メートル。雄大な機体の打ち上げは多くの宇宙ファンの心を掴んでいる。01年以降、年平均2回、17年には6回打ち上げられたことで、「ロケット打ち上げの見学」は決して珍しいことではなくなった。

JAXAは日本経済研究所に調査を委託し、23年に「地域における宇宙事業に関する経済分析」をまとめた。それによると、宇宙センターがあることによる種子島への経済波及効果は約117億円。ロケットの打ち上げを1回増やすと、見学者や出張者の消費によって約2400万円の経済効果が見込まれるという。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story