コラム

高級ブランドばかりかウォルマートまでがNFT事業に乗り出す理由

2022年02月16日(水)18時33分

2つ目の理由は、ネット上の売買の効率化だ。買い手にとっては料金を支払ったあとに、売り手が本当に商品を郵送してくれるのかが心配。売り手にとれば、商品を送ったあとに買い手が本当にお金を支払ってくれるのかが心配。そこでECサイトやオークションサイト、メルカリなどの業者が中間に立って取引を保証し、その代わりに手数料を受け取るというのが、現状のネット通販の仕組みだ。

ところが商品の代わりに、商品の所有権が明記されたNFTを売買し、NFTの所有者に実際の商品を後日郵送すれば、中間業者が不要になる。

今後、NFTを使った中間業者の中抜きがどの程度進むのか。Amazonなどの大手ネット通販の事業に影響があるのか。興味深いところだ。

所有権の売買なら無関税

3つ目の理由としては、バッグなどの本物の証明が考えられる。高級ブランドにとっては模造品が流通していることが頭の痛い問題の1つだが、高級ブランド自身がNFTを発行することで、バッグなどの商品が本物だという証明になる。取り扱う商品が高額なブランドにとってこそ、NFTはより有効なツールになりそうだ。

ITビジネスコンサルタントで「だれにでもわかるNFTの解説書」の著者の足立明穂氏によると、「所有権を売買するという概念が分かりにくいかもしれないが、富裕層の間でアートの所有権を売買する行為は既に一般的。現物の越境がないので関税も発生しない。それがNFTで一般大衆でも可能になった。パラダイムシフトであり、ビジネスのヒントは無尽蔵にある」と語っている。

この動きに3Dプリンターの進化が加われば、例えば北欧の家具メーカーから椅子のNFTを購入すれば、日本の自宅近くの3Dプリンターを持つ施設で、その椅子を作るということが可能になる。輸出入のあり方や、グローバル化の流れにも影響を与えるようなイノベーションなのかもしれない。

【お知らせ】
エクサウィザーズでは3月3日に、「だれにでもわかるNFTの解説書」の著者でITビジネスコンサルタントの足立明穂氏を講師に招き「大企業におけるNFTを使った新規事業の展望」というテーマの無料セミナーを開催します。詳しくはこちら


プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story