コラム

「台湾のコロナ成功」には続きがあった──オードリー・タン氏講演から

2021年02月18日(木)17時30分

元ハッカーから台湾のIT大臣に抜擢されたオードリー・タン FCCJchannel/YouTube

エクサウィザーズ AI新聞(2021年2月5日付)から転載


この記事のポイント

・成功例として有名なアプリ、実はマスク在庫ないのに「在庫」ありと表示していた
・店舗は忙しくて、保険証の番号を入力する時間がなかったのが原因
・店主が予想外の解決策を提案
・非エンジニアをも巻き込むことが本当のDX

新型コロナウイルス対策の成功例として取り上げられることの多い台湾。マスクの在庫状況をスマートフォンで確認できるアプリを一般人が開発し、パニックを回避した話は有名だ。ところがこのほど開催されたオンラインイベントに登壇した台湾のデジタル大臣のオードリー・タン氏は「実はこの話には続きがあるんです。アプリが開発された後に、『アプリを信じるな』という張り紙をする店舗が出てきたんです」と打ち明けた。

アプリを開発したのは、一般企業に勤めるエンジニアの男性。Googleマップ上にマスクを販売する薬局などの店舗を表示し、店舗側がマスクの在庫数を入力することで、どの店にマスクが残っているのかを地図上で確認できるというアプリだ。

非常に便利なアプリなので利用者が殺到。ところが、Googleマップは一定数を超えるアクセスがあれば、利用料が従量課金される仕組みになっている。マスクを求める消費者がこの地図に一気にアクセスしたため、開発者の男性に巨額の請求書が送付されることになってしまった。

一人で払える金額ではない。そこで、この男性はエンジニアのオンラインコミュニティに相談。そのやりとりを見たタン氏がすぐに、台湾の総統に直接掛け合って、政府が利用料を支払うことになった。

政府ではなく、市民エンジニアが社会のために便利な技術を開発。政府が迅速に動いて、それを支援する。市民エンジニアと政府が一つになって活動する「シビックテック」の成功例として、世界中のマスコミが大きく取り上げた。

「マスクアプリを信じるな」の張り紙が

ところが「報道はそこで終わっているんですが、実はこの話には続きがあるんです」とタン氏は言う。タン氏が近くの薬局の前を通ると、「アプリを信じるな」という張り紙がしてあった。どういうことかを確認するため、中に入って店主に話を聞いてみたと言う。

買い占めが行われないように、マスクの購入には健康保険証の提示が必要で、一人一枚だけ受け取ることができるようになっている。この店では、午前中にマスクを求める客が殺到。対応に忙しくて、健康保険証の番号をアプリに入力する時間がなかった。そこで整理券と引き換えに健康保険証をいったん預かっておいて、お昼休みに番号をいっせいに入力する方法を取っていた。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送次期FRB議長にウォーシュ氏指名、トランプ氏「

ビジネス

米金利は「中立」水準、追加利下げ不要=セントルイス

ワールド

トランプ氏、ウクライナ紛争終結「合意近づく」 ロ特

ワールド

トランプ氏「イランは合意望む」、プーチン氏はイラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story