コラム

ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来

2020年07月15日(水)15時25分

オンライン対談に応じる台湾のIT推進大臣、オードリー・タン氏 Yuval Noah Harari-YouTube

<『サピエンス全史』で知られる歴史学者ハラリ氏と、台湾のIT推進大臣タン氏による対談を全3回に分けて掲載する。第1回は、2人のジェンダー・アイデンティティの話から出発し、注目を集めた台湾のコロナ対策の背景まで論じる>

エクサウィザーズ AI新聞(2020年7月12日付)から転載

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏と、最先端のコロナ対策で一躍世界の注目を集めた台湾のIT推進大臣、オードリー・タン氏。私が個人的に今、最も注目している二人の知の巨人だ。この二人によるAIや民主主義の未来に関する対談が、RadicalxChange財団の手で実現した。過去から未来を読むハラリ氏と、テクノロジーの現場から未来を読むタン氏。非常に多くの示唆を含む対談になっているため、二人の許可を取って、対談内容をすべて和訳して掲載することにした。

まずは二人のバックグラウンドを簡単に説明しよう。ハラリ氏は、イスラエルの歴史学者・哲学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得。エルサレムのヘブライ大学の教授で、著書『サピエンス全史』は世界で1600万部を超えるベストセラーで、「ホモデウス」「21Lessons」などを合わせると2700万部を売り上げている。

一方のタン氏は、台湾のプログラマーであり政治家。中学を中退後、シリコンバレーで19歳のときに起業している。2016年に35歳の若さで台湾の行政院に入閣し、デジタル担当の政務委員(大臣)を務めている。米有力誌フォーリンポリシーが同氏を2019年の世界の思想家100人に選んでいる。

ハラリ氏はゲイ、タン氏はトランスジェンダーということで、対談は性的マイノリティーの話題から始まっている。

この対談は主に、ハラリ氏の歴史観からくる未来予測が、テクノロジーの観点からどの程度、的を得たものなのかをタン氏に質問するという形で行われている。

◇ ◇ ◇

Puja Ohlhaver(以下、司会者) 皆さん、ようこそ、今日のRadicalxChangeのユヴァル・ノア・ハラリとオードリー・タンの対談です。私はPuja Ohlhaverです。この会話に参加できてとても光栄です。今日の会話のタイトルは「To Be or not to Be Hacked? アイデンティティ、仕事、民主主義の未来」です。

イスラエルからの参加者はユヴァルです。彼はゲイの歴史家であり、広く普及している3冊の本の著者で、皆さんも聞いたことがあるか、読んだことがあるでしょう。最初の本は「サピエンス全史」で、私たちの遠い過去の歴史です。二冊目は「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」で、私たちの遠い未来について書かれています。最新の本は「21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考」で、今日のことについて書かれています。

台湾のオードリー・タンさんです。オードリーは台湾初のデジタル大臣であり、台湾初のトランスジェンダー内閣のメンバーでもあります。オードリーはまた、アーティストであり、ハクティビスト(ハッカー活動家)であり、無政府主義者でもあります。

まだLGBTプライド月間なので、今日はジェンダー・アイデンティティについての会話で始めたいと思います。特にお二人には、自分のジェンダー・アイデンティティを自分で発見した経緯と、それがテクノロジーに対する見方にどのような影響を与えたかについてお聞きしたいと思います。ユヴァル、まずはあなたから始めましょう。

データをデバイスで管理

ハラリ 自分がゲイであることに気づき、カミングアウトしたことで、技術だけでなく、科学や歴史全般に対する私の態度が大きく変わりました。まず最初に、人が自分自身についてほとんど何も知らないということに気づかせてくれました。私がカミングアウトしたのは、21歳の時でした。

15歳、16歳当時を振り返ってみても、本当によく分かりません。私は男の子に惹かれていて女の子には惹かれていない。そのことは明白なはずでした。私は自分のことを知的な人間だと思います。なので、自分の性的指向については分かっていて当然なのに、当時はわかりませんでした。心の中は分断されていて、自分のことを自分で分かっていませんでした。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。

ニュース速報

ビジネス

中国新築住宅価格、5月は前月比+0.6%で横ばい 

ワールド

GAFA規制法案、米下院司法委が来週表決

ビジネス

5月豪就業者数は11.52万人増、失業率は5.1%

ビジネス

原油価格、今後数年は不安定な動き=米キャッスルトン

MAGAZINE

特集:ルポ 武漢研究所のウソ

2021年6月22日号(6/15発売)

新型コロナウイルスの発生源と疑われる中国の研究機関は危険な感染実験を繰り返していた

人気ランキング

  • 1

    中国の原発で放射線漏れの疑い チェルノブイリを彷彿とさせる透明性の欠如

  • 2

    コロナ研究所流出説を裏付けるコウモリ動画

  • 3

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい」5つのスキル

  • 4

    カメラや望遠鏡が、紙のように薄くなる?光学素子が…

  • 5

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」…

  • 6

    新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタ…

  • 7

    インド型変異株(デルタ株)は従来株と症状が違うの…

  • 8

    「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型…

  • 9

    病院がICUを放棄? 無人の部屋に死体のみ、訪ねた親…

  • 10

    無計画な植林が環境を破壊している 侵略種化や8割衰…

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウンゴールで五輪に失敗した」

  • 3

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

  • 4

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

  • 5

    中国の原発で放射線漏れの疑い チェルノブイリを彷…

  • 6

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい…

  • 7

    病院がICUを放棄? 無人の部屋に死体のみ、訪ねた親…

  • 8

    ノーベル賞を受賞した科学者の私が、人生で後悔して…

  • 9

    歴史に置き去られた世界の廃墟たち...不気味で美しき…

  • 10

    コロナ研究所流出説を裏付けるコウモリ動画

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    脳が騙される! 白黒の映像が、目の錯覚でフルカラーに見える不思議な体験

  • 3

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

  • 4

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウン…

  • 5

    東京オリンピックの前向きな中止を考えよ

  • 6

    武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得…

  • 7

    閲覧ご注意:ネズミの波がオーストラリアの農地や町…

  • 8

    【ファクトチェック】肛門PCR検査は中国で義務付けら…

  • 9

    ファイザーのワクチンで激しい副反応を経験した看護…

  • 10

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中