コラム

英ディープマインド社のAIは、社会課題の解決に適さない!?

2019年08月20日(火)10時40分

トップ企業の手法を疑問視する論調が出始め、AI研究も新しいフェーズに wired.com

<同社の有名なアルファ碁が人間に勝てたのは、不変の碁盤、不変のルールを前提に膨大な学習ができたから。だが人間社会の現場では、環境は常に変化している>

エクサウィザーズ AI新聞から転載

米誌WiredのDEEPMIND'S LOSSES AND THE FUTURE OF ARTIFICIAL INTELLIGENCEという記事を読んで。

Googleの持株会社Alphabetの子会社であるAIベンチャーの雄、英DeepMindが赤字を続けているらしい。この記事によると、2016年には1億5400万ドルの赤字を計上し、17年には3億4400万ドル、18年には5億7200万ドルと、赤字幅が拡大し続けている。推定買収金額の6億5000万ドルを含めると、GoogleはこれまでDeepMindに20億ドル相当の資金を投入していることになる。

一方でDeepMindの昨年の売り上げは、Googleのデータセンターの省エネ施策などで得た1億2500万ドル程度。年間売り上げ1000億ドルの大企業Googleがバックアップしていなければ、DeepMindはあっという間にマーケットから退場させられていることだろう。

DeepMindはこれまでに画期的な成果を幾つも挙げているのだが、AIを使って社会課題を解決するという観点から見ると必ずしも効率のいいやり方ではないのではない、というのがこの記事を書いたニューヨーク大学のGary Marcus教授の問題提議だ。

DeepMindの技術は深層強化学習と呼ばれるもので、深層学習(ディープラーニング)と強化学習の手法を組み合わせたもの。確かにこの手法で、DeepMindはこれまで数々の偉業を達成してきた。

碁のチャンピオンに勝ったAlphaGOもこの技術だし、医療の分野でも深層強化学習は目の異常を早期発見したり、がんの早期発見にも役立っている。

2000年以上変化しない碁だから勝てた

だが同教授によると、深層強化学習には欠点があるという。それは、前提となる条件や状況が少しでも変化すると、最初から学習し直さなければならないという点だ。

碁は条件や状況が変化しない。碁盤の形は一定だし、ルールも変わらない。ところがテレビゲームなどでは、登場キャラクターが一人追加されれば、膨大な量の学習を一からやり直さなければならない。
深層強化学習は、人間がAIに攻略法を教えるのではなく、AIが無数の試行錯誤を繰り返すことでAIが自分自身で攻略法を編み出すタイプの学習方法。ありとあらゆるケースで試行錯誤するため、学習に時間とコストがかかる。ある試算によるとAlphaGOの学習コストは、約3500万ドルにも上ったという。

Googleのように半端ない資金力を持つ大手企業なら、それも可能かも知れない。しかしテック大手以外では、学習コストにここまでの資金を投入するわけにはいかない。

世界中に存在する社会課題は、状況や条件が変化するものがほとんど。碁のように2000年以上も環境が変化しないようなものはまずない。環境が少し変化するたびにAIが膨大な量の学習をし直さなければならないのであれば、そういうAIは世の中の社会課題解決には向かないかもしれない。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イラン作戦の正当性主張 目的・期間は依

ワールド

イタリア、25年の財政赤字の対GDP比目標達成でき

ワールド

高市首相、トランプ大統領と「イラン問題についても率

ワールド

米海兵隊、在カラチ領事館でイラン攻撃に抗議するデモ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 5
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 8
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story