コラム

中国が仕掛ける「現代のアヘン戦争」...米国でフェンタニルが若者の死因1位の「異常事態」

2023年03月18日(土)19時28分
習近平国家主席とバイデン大統領

アメリカは繰り返し中国に対応を求めているが…(2022年11月) Kevin Lamarque-Reuters

<合成オピオイド「フェンタニル」が多くのアメリカ人の命を奪っているが、その90%以上が中国から来ているとされる>

先日、米政治専門のザ・ヒル紙が、こんな記事を掲載して話題になっている。「アメリカ人18~45歳の死因のトップが、心臓疾患や癌、自動車事故、新型コロナなどではなく、フェンタニルだと知ったら驚く人もいるだろう」

■【動画】米国における薬物の過剰摂取による死者数と、そのなかでフェンタニルが占める割合は?

フェンタニルとは非常に強力な鎮痛剤で、モルヒネの50~100倍の効果があるという。フェンタニルとは合成オピオイドのことだが、オピオイドは、けしの実からから採取される有機化合物とそこから生成される化合物の総称だ。

これが以前からアメリカで蔓延しており、現在も社会問題となっている。加えて、記事では「アメリカで発見される違法なフェンタニルのうち90%以上が中国から来ている」とし、中国がアメリカに近代の「アヘン戦争」を仕掛けているとも指摘されている。

アメリカ政府は2018年に中国に対してこの事実を突きつけ、対応を迫った。するとフェンタニル関連薬物を規制薬物に指定したが、実際にはきちんと規制されていないと反発が上がっている。

以前は国際郵便などで直接、アメリカから購入して捌くような売人がのさばっていたが、米当局が輸入管理強化や中国人に対する制裁措置などの対策を講じるようになると、今度は中国からメキシコの麻薬カルテルなどを経由してアメリカに違法フェンタニルなどが届くようになった。結局、中国が違法薬物の輸出規制への協力を強化しないため、いつまでもアメリカに違法薬物が流れ続けている。

街では、「China Girl」「China White」「Murder 8」「Jackpot」といった名称で密売されている。

中国外務省は2019年に、世界全体の5%を占めるアメリカ人が、世界のオピオイドの80%を消費しているとし、アメリカ政府が「国内の麻薬への需要をもっとコントロールせよ」と批判している。

「中国も19世紀にアヘン戦争の犠牲者になった」

さらに2022年には在米中国大使が米ニューズウィーク誌のインタビューに応じ、「中国も19世紀にイギリスのアヘン戦争の犠牲者になった」と述べた上で、「中国から(フェンタニルやその関連麻薬を製造する)物質がメキシコに密輸されてフェンタニルの製造に使われているというメキシコからの報告やデータは受け取っていない」と否定している。

一方でメキシコの大統領は3月17日に、アメリカ人がフェンタニル中毒になる理由は、「家族がもっとハグし合わないからだ」と語ってニュースになっている

ただそうしている間にも中毒死のニュースは次々と報じられている。中国による近代の「アヘン戦争」については、「スパイチャンネル~山田敏弘」でさらに詳しく解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story