コラム

安倍元首相「暗殺」事件、「疑惑の銃弾」と残った陰謀論...問題の根幹とは?

2023年02月25日(土)18時57分

そして2月13日。奈良県警は安倍元首相暗殺事件の捜査を終了したと発表した。だが、銃弾の「疑惑」は解消されないまま、これからも様々な憶測と陰謀論が渦巻くことになるだろう。

筆者は事件の後に、弾丸が行方不明になっているという話を関係者から聞いた際、きっちりと死因の究明をしないと今後ずっと安倍元首相の死因について、不必要な陰謀論が渦巻くだろうと指摘してきた。

というのは、こうした検視の矛盾などによって、事件から60年近く経った今も、その死因に陰謀論が渦巻いているケースの「死因究明」について取材をしていたことがあるからだ。そう、ジョン・F・ケネディ暗殺事件である。

歴史的な暗殺事件に付きまとう「幻の狙撃手」説

当時のことを知るアメリカの法医学者らに取材をして、ケネディ元大統領の検視に問題があったことを調べた。そんなことから、「疑惑の銃弾」の第二弾の記事で筆者は文春にこんなコメントを寄せている。

「米国のケネディ大統領が暗殺されたときには、遺体を現場のテキサスではなくワシントンまで運び、法医学の専門医ではない米軍の医師が解剖を行いました。そのため『どこに銃弾が落ちていて、どのような角度で弾が当たったのか』といった検証が不十分になり、『幻の狙撃手がいた』という陰謀論が囁かれるようになったのです。その反省から、米国では事件の検証が徹底されるようになった。今回の事件でも、警察は弾道などの詳細をきちんと検証し、国民に疑念を持たれないように公表するべきです」

アメリカの法医学では、ケネディ暗殺の検視の不備を繰り返さないために「ノーモア・ダラス」(ケネディが暗殺されたテキサス州ダラスの失態を繰り返すな、との意味)という言葉が生まれたくらいだった。

安倍元首相の暗殺と、ケネディ暗殺事件の検視については、「スパイチャンネル~山田敏弘」の動画、「疑惑の銃弾 安倍元総理を撃った弾はどこへ消えた?」と「暗殺と司法解剖」で詳しく解説しているので、ぜひご覧きただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

親トランプ投資家アックマン氏、母校ハーバード大を批

ビジネス

テスラ、米国で「モデルY」廉価版発売 実質3.7万

ワールド

自動車関税も遺憾と米に伝達、交渉の土俵決める局面=

ビジネス

アジアの航空会社、インド・パキスタン戦闘でルート変
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 9
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 10
    メーガン妃の「現代的子育て」が注目される理由...「…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story